醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

せかせかと五分を惜しんだところで何にもならない ~ よしもとばなな 「王国 その3 秘密の花園」

みんないつも前のめりで、五分先を生きている。
 もしも、それが一年や十年先なら、きっとなにかの意味が出てくるのだろう。でも五分先だとただせわしないだけなのだ。みんな急いでいる、むだにエネルギーを使っている。*1

王国〈その3〉ひみつの花園

王国〈その3〉ひみつの花園

都会に住むようになってから、いつもせかせか生きてきた自分を思い知る。信号が点滅しているうちに走り出し、十分後には次の電車が来るというのに駆け込み乗車をする。そんなにまでして守らなくてはならない時間があるわけではないのに。

信号の前で一呼吸置いて立ちどまり、駆け込まずに次の電車を待つようになってから、一日は変わった。ただせかせかと、目まぐるしく過ぎていった時間と、今は共に生きている。

*1:p.17-18