醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

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情報を書かないこと ~ 荒川洋治 「夜のある町で」

夜のある町で

夜のある町で

背表紙に引き寄せられてふいに手に取り、ぱらりと捲って驚いた。飛び込んできた文字は「土屋文明記念文学館」。そこは郷里の文学館であり、いつか勤めてみたいとも思っている憧れの場所である。ちょうどそこを訪ねた直後に、このエッセイ集と出逢った。偶然ではなくて、必然なのか。

堅い紙面批評もある。スカートの中身に思いをはせる、笑ってしまうような話もある。短めの文章が七十八編収められたエッセイ集。それぞれみな違った味がして、最後まで楽しませてくれる。一ヶ月ほどかけて少しずつ読み、読み終えてしまったあとはカクンとつんのめるような心もちがした。おや、もう終わってしまったのか。永遠に読み続けられそうな気がしていたのに。

荒川洋治さんの文章を書くときの心がけが紹介されていた。

①知識を書かないこと。
②情報を書かないこと。
③何も書かないこと。*1

いろいろなブログがある。さまざまな知識や情報を提供してくれるブログも。為になる。でも、どんどんと情報が流れ込んでくるこの毎日で、真に読みたいと欲するのは、何でもない、あんまり為にならない、為にならないけれどほっとする、誰かのつぶやきであるのではないか。

中身があってないようなもの。そんな文章を書いてみたい。

*1:荒川洋治「おかのうえの波」『夜のある町で』みすず書房 1998.7 p.171