醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

春の珍客

その教室は半地下になっていて、壁自体がそのまま巨大な窓になっている。二メートルほどの高さの窓が連なる下に、五十センチほどの高さの小さな横長の窓が並んでいる。

教室に一歩脚を踏み入れたら、沢庵のような匂いがした(前の授業で何が起こったのだろう?) 空気を入れ替えたくて、下の窓の、教卓に一番近いところをほんの少しだけ空けておいた。

授業が始まる。僧侶の先生が朗々とした声で授業を進める。ふと、視界の端を横切るものがあった。

白地に茶色い斑の、猫。「耳をすませば」のムーンのように、堂々と窓枠を歩いていく。教卓の前、窓が開いているところに差し掛かる。カーテンの陰から、ふいと一歩侵入。身を乗り出して熱弁を奮う先生の顔を窺い、ちょっと匂いをかぎ、また堂々と去っていった。

構内で猫はよく見かけるが、そんなふうに堂々と授業を拝聴していく輩は始めて見た。かの猫さんは、そのうち人間を被って学生を装い、授業に参加しに来たりするのだろうか。