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醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

永遠のシュール

神楽坂。歩いても行くことのできるその街に、これまで訪れたことはなかった。そこは小説に出てくる舞台であり、歌詞に織り込まれた場所でもあり、現実離れした妖艶な街のように思っていた。

新緑の日差しの下のその街は艶を闇に隠し、ただ明るくそこにあった。あたりまえの商店街として。一度訪ねただけではただの観光地。路地裏へ一歩入ったところに、本来のその街の姿があるのだろう。

飯田橋へ一度下りてから、坂の上に引き返し、今度は神楽坂の駅には寄らずにそのまま緩やかな傾斜を上りつづける。やがて道脇に並んだ商店は姿を消し、無味乾燥なビル街へと移る。曲がり角を幾つか過ぎた先に、見慣れた早稲田の町並みがある。

地下鉄一駅分の距離の間に、街の様子ががらりと変わってしまう。早稲田通りと神楽坂の境目で時空がずれたかのように。知らない街から歩き続けると、見慣れた風景さえ新鮮に見える。戻ってきたこの街さえ、物語の続きの世界だ。

永い夢のさめた後の静けさは
青い闇へのびる恋の神楽の坂 *1

永遠のシュール

永遠のシュール

*1:井上陽水「恋の神楽坂」『永遠のシュール』