おんなのおしゃべり ~ 向田邦子「父の詫び状」
良いエッセイは時間を忘れさせる。小説のように引き込みはしないけれど、読者の時間にそっと寄り添う。紡ぎだされる子ども時代の話は私が生まれるよりずっと前のこと。それなのに、何故か懐かしい。そんな時代を私も生きていたような気にさせる。
- 作者: 向田邦子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/08/03
- メディア: 文庫
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向田邦子が育ったような家族は、今この時代にもちゃんと存在しているのだろうか。父親が一家の大黒柱で、子どもたちが「大人っていいな」と思えるような家庭が。向田さんのお父さんは若干過剰かもしれないが、やはり「お父さん」というものはどっしり構えていて欲しい。お母さんも、例え夫に愛想を尽かしていても、子どもたちにはお父さんは偉いんだと振舞って欲しい。
悲しくなるような現代のお父さん像。ませていても子どもは経験不足、「恐い親父」が立ちふさがっていなかったら、どこへ行ってしまうかわからないじゃないか。
邦子さんのエッセイは、流れるように次から次へと話題が飛び出してくる。その感覚は、女性同士のおしゃべりに似ている。男性の場合は、それぞれの話を順序立てて、積み上げているように感じる。エッセイでも、話すときでも。
女同士のおしゃべりは流れ流れて、どこへ終着するやらさっぱりわからないが、邦子さんのエッセイはぽんと最初の話題に戻ってくる。そうすると、すべてのエピソードが上手い具合に連なっていることに気づく。そしてまた、なんと書き出しの一文の鋭いことか。
見習いたいと思うが、なかなかに難しい。修行不足だ。