醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

向田邦子展

銀座松坂屋へ向田邦子展を見に行く。銀座があまりに近いことに驚く。東村山に下宿していたときの感覚が残っている。銀座とは、一時間以上電車に揺られた先にあるものだと信じ込んでいた。メトロの切符は二〇〇円足らず。わずか十五分ほどで松坂屋に到着。

平日の午前中。客足はまばらである。初老のご夫妻を多く見かける。邦子さんも、存命であれば同じくらいのお歳か。

直筆原稿に万年筆。机の上の置物。中川一政氏の書画。洋服に靴などなど。

直筆原稿に食い入るように見入る。悪筆と呼ばれたその文字は、確かに読み辛いがどこか親しみ深い字であった。彼女が握ったであろう万年筆や、何度も袖を通したであろう服が並んでいるのを見ていると、全身に鳥肌というか寒気が走った。無数の邦子さんが、会場中に散らばってこちらを見つめているようで。