謎のいきもの。 ~ 小川洋子 「ブラフマンの埋葬」
「僕」がともに暮らしたブラフマンとは、一体どんな動物だったのだろう。そして僕はどこの国の、いつの時代に生きているのだろう。
- 作者: 小川洋子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/04/13
- メディア: 単行本
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ブラフマン、ブラフマン。最初それは犬かと思った。茶色い体毛にまん丸の目、感情を表す尻尾。だけれど、なんだかおかしい。犬には水かきがあっただろうか。水中を滑らかに、潜水で泳げるだろうか。
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
- 発売日: 2005/11/19
- メディア: 雑誌
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結局彼がどんな生き物かわからないままにこの物語は幕を閉じてしまうのだけれど、以前読んだku:nelを引っ張り出してはたと気づく。
ふと、机の横の小さな鏡台の上にある白い塊が目に入った。骨だ。小さな、動物の頭蓋骨。
「これは…ビーバーですね。お土産でいただいたんです」。*1
そ、そうか、ビーバーか。小川さんはこの骨からインスピレーションが湧き、ブラフマンを創りあげたのだろうか。そう考えると納得がいく。あるかなきかの耳。机の脚を齧る癖。魚とひまわりの種が好きなこと。
とすると、僕が住んでいるのは野生のビーバーが森に住んでいる国、ということになる。ラベンダー色の木箱に詰められて川を流れる遺体。芸術家だらけの村。そんなものが実在する場所があるのだろうか。それとも、全くの創作なのだろうか。
すべての章の終りに挟まれている、字体の違うブラフマンの観察記録が面白い。そして最後の観察記録は、ひりひりと切ない。