男の執念 ~ 永井荷風 「つゆのあとさき」
早稲田に古本屋は数あれど、五十嵐書店*1ほど立ち入るのに緊張を要する古本屋は無い。小汚い格好の一学生としては、「どうもこんなものが来店してしまって申し訳ありません」という気持ちで自動ドアを潜る。綺麗に整頓された本。ギャラリーのような展示。長野まゆみやクラフト・エヴィング商會の本の中に紛れ込んだような気にさせる。
地階はさらに敷居が高い。日本文学の研究書がずらりと並ぶ様は圧巻だ。とても手が出せない。小心学生は入り口階の文庫本の棚を彷徨うばかりだ。
今は懐かし帯つきの岩波文庫、「つゆのあとさき」を買う。荷風は川本三郎の著作*2を読んで気になっていたのだが、初めて手にする。「つゆのあとさき」を選んだのは、無論この季節にちなんで。
- 作者: 永井荷風
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1987/03/16
- メディア: 文庫
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- 作者: 川本三郎
- 出版社/メーカー: 新書館
- 発売日: 2003/01
- メディア: 単行本
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カッフェーというもの、女給というもの。当時の世俗が写し取られている。君子の淡々とした振る舞いは、「女徳」*3の智蓮尼を思い出させる。女の性欲には果てが無い。終りが無い。
「おじさん。男っていうものは女よりもよほど執念深いものね。わたし今度始めてそう思いましたわ。」
「思い込むと、男でも女でも同じ事さ。」*4
同じ事だと答えたおじさん自身、男の執念は恐ろしいものだと遺書を書き残す。吸い取り、食べつくす女の恐ろしさと、それに振り回される男。女は悲劇のヒロインになりえない生き物なのかもしれない。