醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

花は散るから、美しい。 ~ 夢枕獏 「陰陽師 飛天ノ巻」

陰陽師、第二巻。清明と博雅の掛け合いに乗せられ、するすると読み終わってしまう。端正な清明と実直な博雅は、正反対のようでいてなかなか良いコンビだ。

「離れるものか。それはあの坊主に懸想しておきながら。誰が、この下衆の女から離れてやるものかよ。おれは、おまえに惚れぬいてやるのだ。千年、万年、この時のいや果てまでも。小町よ、この天地が変わろうと、おまえの美しさが変わろうと、この我が想いのみは変わらぬぞ。ああ、根限り愛しいぞ。この下衆女―」
「畜生!」
「くかかかか」
「畜生!」
「くかかかか、楽しいなあ、小町―」*1

陰陽師―飛天ノ巻 (文春文庫)

陰陽師―飛天ノ巻 (文春文庫)

恋の狂気は花の下で舞う。老いる哀しみを歌った人は、俗世の恋を忘れられぬまま、永久に舞い続ける。

花の色はうつりにけりないたづらに
わが身世にふるながめせしまに

老いることが、美しさを失うことだとは思わない。「お若いですね」が褒め言葉になる意がわからない。いく時代を経たその皺ひとつひとつに美が宿る。その人の生きてきた価値が刻み込まれる。そして、花は散るからこそ、美しい。

*1:夢枕獏 「鬼小町」 『陰陽師 飛天ノ巻』 文春文庫 2001.8 p.190