花は散るから、美しい。 ~ 夢枕獏 「陰陽師 飛天ノ巻」
陰陽師、第二巻。清明と博雅の掛け合いに乗せられ、するすると読み終わってしまう。端正な清明と実直な博雅は、正反対のようでいてなかなか良いコンビだ。
「離れるものか。それはあの坊主に懸想しておきながら。誰が、この下衆の女から離れてやるものかよ。おれは、おまえに惚れぬいてやるのだ。千年、万年、この時のいや果てまでも。小町よ、この天地が変わろうと、おまえの美しさが変わろうと、この我が想いのみは変わらぬぞ。ああ、根限り愛しいぞ。この下衆女―」
「畜生!」
「くかかかか」
「畜生!」
「くかかかか、楽しいなあ、小町―」*1
- 作者: 夢枕獏
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1998/11
- メディア: 文庫
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恋の狂気は花の下で舞う。老いる哀しみを歌った人は、俗世の恋を忘れられぬまま、永久に舞い続ける。
花の色はうつりにけりないたづらに
わが身世にふるながめせしまに
老いることが、美しさを失うことだとは思わない。「お若いですね」が褒め言葉になる意がわからない。いく時代を経たその皺ひとつひとつに美が宿る。その人の生きてきた価値が刻み込まれる。そして、花は散るからこそ、美しい。