人ノ為ナラズ
惚れるが負け。惚れたものの弱み。ああ、なんとでも言ってくれ。
今週も引き続き恋人の指導案を練っている。平日は大学の授業の後から終電前まで、週末は徹夜で。自分の課題を脇に追いやり、ひたすら彼の教材と睨みあっている。
ある朝、寝不足の頭をぼぉっともたげ、私は一体何をしているのかと考えた。考えながら、だんだん腹が立ってきた。何故あの男は自分一人で授業を作ろうとしないのだ。主の授業ぞ。私が書いた脚本で俳優をやっていていかがする。
情けは人の為ならず、という。誰かに親身に接すれば、その利は廻りめぐって自分のもとに返ってくる。これはかつての解釈。現在の主流は、情けをかけて親身になることは、その人のためにならぬ、というもの。
私の頭の中を、いにしへの解釈と現代の解釈が駆け巡る。自分の勉強にもなるから、彼の手伝いをする……いや、私がやってしまったら、彼自身の勉強にならぬではないか、等々。
しかし、突き放せないのは私の弱みなのだ。私が指導案に唸っている限り、彼は毎夜通って来る。いくら寝不足が辛かろうと、彼といる時間を自ら手放すことは出来ない。