醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

もう一度卒業式を

日曜日の夜、大学構内は人気がなくて淋しい。散歩の帰りにぶらりと立ち寄ったら、お化けみたいな銀杏の木が並んでいた。寒さと恐さで、手元が震える。恐いものは、うつくしい。

高校の卒業式の夢を見た。みんな見た目は高校生のままだけど、中身は現在の現実のまま。お父さんになった男子はお父さんだし、みんなそれぞれの仕事を持っている。でも、学ランやらブレザーやら着て、あどけない髪型や顔つき。

仕事の合い間に会場に駆けつけてきたようで、卒業一同は草臥れて眠りこけている。
「卒業生、起立!」

の号令でも、気づいて立ち上がる人のほうが少ないくらい。先生のむっとした顔(なぜか先生は、中学のころの学年主任だ)。慌てて前の席の男子を揺さぶり起こす。そういえば、会場の席順も当時の出席番号のままだった。

式の終わった後の教室で、退学した子の噂話をしている。彼はいつのまにかベンチャー企業の社長になったらしい。
「おまえらとつきあわなくなってから、おれ成功したよ」

って言ってたって、看護師になったコがぷりぷり怒っている。そんな夢。

廊下を歩いていたら、後輩に呼び止められる。
「あ……先輩。部活見ていきませんか?」

たしか彼女ももう随分と前に卒業したはず。いったい今は何年生になったんだろう?と思ったところで目が覚めた。

高校の卒業式なんて、記憶のかなたの遠い日のこと。大泣きした記憶はあるけれど、たしかに実感は全然無かった。明日から、ここに生徒としてはもう来ないということ。同じ教室で三年間を過してきた仲間たちと、もしかするともう二度と、全員そろって会うことは無いかもしれないということ。

あの雪の日から何度も冬がめぐって、同級生たちはそれぞれ仕事についた。結婚してパパやママになったコもいる。それなのに私の中には、高校生のままの自分が棲みついていたらしい。

昨夜、自分のなかの卒業式がようやく終わった。年が明けたら、今度は現実の、大学の卒業式だ。