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醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

谷村志穂 『なんて遠い海』

書評

あけましておめでとうございます。
実家に帰って、十代の頃に買い集めていた本たちを懐かしく手に取りました。

なんて遠い海 (集英社文庫)

なんて遠い海 (集英社文庫)

谷村志穂さんの『なんて遠い海』を買ったのは、確か中学生のころ。十代の私には共感できなくて、実家に置いてきたままになっていました。確かにここに納められている短編のなかで、中学生が読んでも共感できそうなものは「シオールの海」くらい。ハワイのハイスクールで卒業を迎えた、シオールこと詩織のあまりにもあっけない初恋の物語です。

そのほかの短編はあまりにも大人すぎて、中学生の私には全然読みこなせていなかったようです。セックスレスな夫婦生活の告白、離婚への序章、結婚目前にして終わりが見えている恋、若すぎる恋人を持つ女教師の憂鬱・・・・・・そりゃあ、十代では共感できないわな。

読み返してみて、手元に置いておきたくなりました。谷村志穂さんの紡ぐ物語には洗練を感じます。登場人物にお下品な下ネタをさらっと言わせたりするのだけれど、それがユーモアがあってなかなかいい。下ネタが素敵だなんて、これはすごい高等技術!

そしてまた、物語の背景が清んでいて鮮烈なイメージを誘います。北海道の雪渓、そこに咲く花。茅ヶ崎の海に光る夜光虫。雪の札幌の街を駆けてくる昔の恋人。ハワイのどこまでも青い海。

読み終わって、旅をしてきたような気分になりました。
いいお正月でした。