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醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

谷村志穂 『海猫』

書評

漁村に嫁ぐ花嫁。あまりにも美しく白く透き通った、漁師の村には似合わない女。彼女の母親は強い女である。ロシアの血をひく男と添うためにすべてをなげうって生きてきた。娘の薫は父の血を受け継ぎ、まるで海猫のような青い瞳をしている。

海猫〈上〉 (新潮文庫)

海猫〈上〉 (新潮文庫)

海猫〈下〉 (新潮文庫)

海猫〈下〉 (新潮文庫)

愛に純粋な血は母親譲りだろうか。けれど、母親のように強くは生きられない。薫には生きることに対する執着が薄い。函館の街に、南茅部の村に、しんしんと降る雪のよう、熱い男達の胸の中に溶かされてしまう。

長い物語でした。久しぶりに「小説」を読んだなぁという気になりました。義弟の広次に惹かれてしまうのは、自分の弟である孝志への投影なのだろうか。救いようの無い前編のラストには息が詰まってしまいます。

往く当てのない恋。映画化された物語は前編を中心に作られていましたが、目をひくのは後半、薫の娘たちの物語です。自分たちの生い立ちを背負い、一人はそれをきつくはねのけながら、もう一人は母と同じように愛の淵にのまれながら、それでも生きていく。

女の脆さ。その裏返しのような強さ。
なぜか少し、励まされてしまう。