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醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

白井弓子『天顕祭』

書評

時は、少し先の未来。空爆によって毒物が散布された「汚い戦争」が終わり、人々は汚染を免れた土地で復興を遂げていた。資源不足の中バイオ技術は進み、建物にはバイオ建材が使われている。鉄鋼も木材もないため、鳶職は竹を組み、足場としている。それは遠くは江戸、近くは昭和を思わせる、なんとも懐かしい光景である。戦争と汚染の恐怖は薄れつつあった。しかし清浄指定都市を離れれば、マスク無しでは立ち入ることのできない汚染された土地が未だ広がっている。

天顕祭 (New COMICS)

天顕祭 (New COMICS)

鳶の若頭、真中修二は、安クラブで木島咲を拾った。意に添わない相手と結婚させられそうになり逃れて来たのだという。人手不足の折、真中は木島を鳶として雇うことにした。女だから力はないが、高所を恐れずよく働く。しかし天顕祭が近づくにつれ、彼女の様子はおかしくなっていった。

元は同人誌として発表されていた作品なのだそうです。同人誌からは異例の、第十一回文化庁メディア芸術祭マンガ部門の奨励賞を受賞。なるほど、確かに同人誌の中だけに留まらせておくにはもったいない作品です。原画は水彩と色鉛筆でしょうか。ぜひ、カラーで見てみたかった。

古事記のヤマタノオロチ伝説が下敷きとなっています。ヤマタノオロチに喰われるのを待つしかなかったクシナダ姫を、スサノオが救ったというこの伝説は、なぜか木島咲の生まれた北山だけでは違った形で伝えられているのです。「汚い戦争」。歪んだ人々の心が、伝説の主であるヤマタノオロチを長い眠りから目覚めさせてしまったのでしょうか。

読んでいて思い出すのは、たつみや章さんの『水の伝説』。

水の伝説

水の伝説

こちらでは、ヒメに選ばれてしまう主人公は男の子でした。山里に住みながらも、神話を本気で信じている人なんて少ない、現代のお話。神様は忘れ去られ、山の木は切り倒されて、林業を営む人の手によってたくさんの杉が植えられた。それは都会から山村留学に来た主人公の眼には豊かな自然に思われたが、実際のところは・・・。

おすすめ

たつみや章さん、荻原規子さんの作品が好きな方にはぜひおすすめいたします。

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