〔おすすめ漫画〕山岸凉子『ツタンカーメン』
なにか心寂しいある夏の夜、長い漫画を読んでみたくなり手を伸ばしたのは山岸凉子『ツタンカーメン』。文庫サイズで出版されるにあたり内容のわかりやすいこの標題となりましたが、コミックまでは『封印』というタイトルだったそうです。誰もが知っているエジプトの王(ファラオ)ツタンカーメン、そしてその黄金のマスク。しかし彼の存在は、つい最近まで忘れ去られていました。
砂に埋もれた記憶を掘り起こしたのは一人のイギリス人、ハワード・カーター (Howard Carter, 1874-1939)。出資者は物好きなイギリスの貴族、ジョージ・ハーバート・カーナボン卿 (George Edward Stanhope Molyneux Herbert, 5th Earl of Carnarvon, 1866-1923)。この二人が運命の出会いを果たし、砂に埋もれたツタンカーメンを発見するまでの、実話を下敷きにした物語です。
- 作者: 山岸凉子
- 出版社/メーカー: 潮出版社
- 発売日: 2002/06/21
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汝 我を見よ
汝 我を掘り起こし とくと見よ
我は汝を王と成さしめる者なり *1
その名を歴史に刻み莫大な富を手にしようと、考古学者を雇い発掘を指揮する西洋の金持ちたち。発見された貴重な人類の遺産はエジプトには残されず、持ち出され換金されていくばかり。その状況を嘆きつつも、発掘の資金を得るためにはそんな奴らに雇われなくてはならないジレンマを抱えるハワード。金の為なら手段も選ばず、汚い手で遺跡を荒らす雇い主らに嫌気がさし、すったもんだで左遷された先、出会ったのはおちゃめなカーナボン卿と、謎の少年カー。
あるはずもないと言われた王の墓を夢見て探し続けた一人の男。彼の夢を信じたもう一人の男。黄金のマスクは今やとても有名なものだけれど、それを見つけ出すまでに彼らがどんなももと戦い、どんな苦悩を抱えていきていたのか、この漫画を読むまではまったく知らずにいました。人の欲望とは果てしないもの。金に群がらんとする、禿鷹のようないくつもの陰。
永い眠りの「封印」を解いたとき、待っていたのは栄光や財産だけではなかった。
談
この記事を用意し始めたのは随分前だったのですが、その後友人が突然エジプトに旅に出たりして驚いたのでした。しかも彼は途中で旅をやめさっさと帰って来て、その後からあの騒ぎが始まった。見えない時代のうねり、人の気の流れを考えさせられました。