醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

夢一夜

こんな夢を見た。

仕事帰り。それはいつもの街のようでいて、夢のなかなのでいろいろ違っている。おれは明日から九州で始まる水族館劇場*1の芝居を見るために、夜行バスに乗らなくては、と考えながらぶらぶら歩いている。

ぼんやりしていたら後ろからきた中学生男子に激突され、悪態をつかれる。肘鉄で反撃したら笑ながら逃げていった。

まだ十七時で宵の口だというのに、街のショッピングモールは軒並みシャッターを降ろしている。

なんだか変だ。いよいよフクシマに異変が? なにも報道はされていない。妙に街は静まり返っている。駅に向かう人波以外は。

JRの駅までシャッターがおりていて中に入れない。たまたま地元出身の知人がいて、まだ動いている路線を案内してくれる。知人といっても夢のなかなので、現実世界では見たことのない顔をしている。

路面電車の線路の上を歩いてホームへ向かう。駅につくと、車掌に「死にたいのか、危ないじゃないか」と叱られる。知人は飄々と「そうです。あたいはもういっそ生きていくのが嫌になりました」と答えていて、おれは「そんな淋しいこと言わないでよ」と必死でなだめている。

ホームには境が無い。縦横無尽に人々はホームを飛び越えて歩いている。路面電車のような、モノレールのような車輌が軽々しくホームを走り抜けていく。

違う知人がいた。「俺は水族館劇場に招待されていない」と悪態をついている。
おれの身体に触ってくるので、「ベタベタしないでよ」と跳ね除ける。

やがて下りの車輌が滑り込んでくる。あわてて知人は飛び乗るけれどおれは乗り遅れる。あれに乗れば横浜までは行けたのだという。

鞄をホームに置いて、次に発車する車輌を探しにいく。ホームの向こう側に止まっているもんだから、おれはトンボを切って線路を飛び越える。

その時回送の車輌が滑り込んできて、ホームでゴザをひいて座っていた中年男性の下半身がおれの目の前で巻き込まれた。なにが起きたのか悟っていないそのごま塩の頭。
おれは咄嗟に目を背けた。

絶叫。

救急車を! 近くで見ていた男性の声。

ホームの乗客たちが大声で叫ぶ。血だ! 血だ!

そばにいたOLが血塗れの両腕を広げて物凄い形相で走り出す。

ああ、おれの鞄はホームの向こう側だ。取りに戻るにはその惨事を見なくてはならないのだ。

そこで目が覚めた。白々しい鎌倉の夜明け。

*1:http://www.suizokukangekijou.com/。もしかしたら現存する最後のアングラ劇団。実際に現在九州で公演中。