今宵限りの一幕
人生はときに小説よりも物語に満ちている。おれは子どもの頃、自分の掌を見ては不思議に思っていた。
これがおれの手?おれの肉体?
一夜限りの舞台で無理やりおれという役を演じさせられているような。
ふと気がつけば、まるで本を閉じるように、テレビの電源を落とすように、おれの物語は終わるのではないか?
おれの存在は誰かが書いた筋書きの中にしかなく、物語が終わったとき、おれの意思とはまったく関係なくバッサリ消えてなくなるのだろうか。TVの中のドラえもんやのび太がそうであるように。
だからおれは、アニメを見るのが恐くてしかたなかった。おれも誰かが鑑賞している物語の中で生きているだけに過ぎない気がして。
大人になってそんなことは殆ど考えなくなったが、今でもふと鏡に映る自分の顔を見て不思議に思う。
これは、自分? おれは生きている? この時代に? この窮屈な躰を持って?