醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

西瓜色のイヤホン、5wの電球。

休み前最終日。日頃の激務に堪え兼ねたか、いよいよスキャナが一台ストライキ。電池を抜いておやすみしていただく。

壊れる日はいろんな物が壊れるのだ。iPhone純正のイヤホンがついに接触不良。突然音が小さくなったり大きくなったりする。慌てて電気屋へ行く。

緑と赤の西瓜色のイヤホンを購う。カナル式とかいう耳栓型のイヤホンは、使ってみたらコードと服とが擦れる摩擦の音が重低音のように響くので、しまったこれは失敗だったかともう一軒電気屋を梯子。けれどももう一軒の方はさらに品揃えが少なくて、結局手ぶらで出てくる。純正イヤホンの素晴らしさを懐かしむ。

あんまり摩擦音がしんどいものだから、帰ったら捨てようかと思って、なげやりな感じで耳に突っ込んで電車に飛び乗る。あれ、摩擦音がしない。どうやら深く挿れ過ぎていたらしい。なぁんだ。

夕暮れ時は淋しい。とても淋しい。誰かに逢えるのではないかと、呑み屋を一軒一軒覗いてしまいそうになる。しかし誰かに逢えたとしても、淋しさを埋めることはできないだろう。その場しのぎの快楽に溺れても、満たされることはないだろう。死ぬまで人は独りなのだ。死んでもきっと独りだろう。「あなたは随分と淋しい、可哀想な人ですね」怒りを湛えた透明な瞳で、そう責められた日を思い出す。己が孤独を埋めるために、他人の人生を破壊して生きていかざるをえないおれの人生の業を思う。自分の孤独を真の意味で癒せるのは己自身でしかない。

イヤホンと一緒に買ってきた、5wという随分暗い電球を下宿の裸電球につけてみる。点いてもついていなくても変わらない程度の明かり。それがなぜか心をあたためるような気もする。


缶ビールを買ってきて呑む。冷凍の枝豆を解凍する。キャベツとソーセージを炒めたの。日本酒を少し。