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醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

山田詠美『放課後の音符(キイノート)』

書評

主人公は「私」。高校二年生、十七才。男の子とつきあったこと、なし。セックスも、まだ知らない。両親は離婚をしている。母親に若い恋人ができてしまったから。いまは父親と二人暮らし。上級生のとある男の子や、幼なじみの純一が、ちょっと気になるこの頃。クラスメイトにはきゃぴきゃぴと、高校生らしい恋の話やセックスの体験談を話してみせる女の子たちもたくさんいる。けれどその一方で、目立たないけれど、もう大人みたいな恋をしている女の子たちがいる。例えば、カナ。

カナは十七才だけれど、もう男の人とベッドに入ることを日常にしている。*1

いつも白い地味なソックスなんて履いているけど、それは学校に来るときもつけている金のアンクレットを隠すため。シーツの上でさらさら揺れると綺麗なのよ、なんて、さらりと言ってみせる。随分年上の人と恋をしているらしい。でも、男の前で泣いてみせるような、子供の手段は使わないと決めている。

それから、マリ。彼女は夏休み、祖母の住む沖縄の離島で耳の聞こえない男の子に恋をした。お喋りに必要なのは口だけじゃない。

カヨコ先輩は、音楽の先生と恋をしている。年は随分と離れているはずだけれど、先輩はまるで子供の頭をなでるように、先生の髪を撫でて放課後の音楽室でキスをする。

まだまだそんなふうにはなれなくて、一生懸命な十七才もいる。

リエは、好きな人と偶然にぶつかる一瞬のために、毎日香水をつけている。耳朶に二滴、胸元に一滴。
雅美は煙草を吸い始めた。美味しいとは思わないけれど、何かが必要な気がして。生きていくには必要ないかもしれないけれど、生きてる実感を味わうために必要なもの。たとえば、男の体だとか。

カズミは彼氏に振られてしまった。28才の女の人に恋をしてしまったのだという。許せなくて、女友達総動員で彼を責め立てたけれど、たまたま彼と一緒にいる彼女を目撃してしまう。素肌に赤い口紅だけ塗った、大人なのに無垢なひと。とても憎いはずだった彼女に憧れて、真紅の口紅を買う。

ヒミコはハイヒールを履いて、夜の街で遊ぶ。だけけれどまだ、ハイヒールを履くと足は痛む。

放課後の音符(キイノート) (新潮文庫)

放課後の音符(キイノート) (新潮文庫)

そんな女の子たちに囲まれて、「私」はどんな恋をするのだろう。

最終章は、彼女がほんとの主人公。「私」には名前がないから、読んでいると自分自身のような気がしてくる。何人もの女の子の恋をみてきて、私ならどうするだろうか、なんて考えている。

*1:山田詠美『放課後の音符』(新潮文庫 や - 34 - 5)新潮社、2000、p.9