醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

世間体だとか、職場での立場だとか、そんなものを考えてみたことは、そういえばこれまでに一度もない。

誇れる世間も、出世のための職場も、おれには無い。

指を差されて、後ろ足で砂をかけられて、それでも人生は素敵だと思っている。

他人の評価はおれの物差しじゃない。

何も失うものはない。

おれはおれの母親の人生を想う。

バツがいくつ付こうと、堂々と生きていける人であっただろうとおれは思っていたけれど、そうでもなかったのかもしれない。

いくつもの裏切り、いくつもの絶望。

世間からの批判。

小さな子供を守らなくてはならない責任。

愛し合っていない夫婦のもとで育った子供は、結婚に理想を持つことができない。

おれは結婚するくらいなら死んだ方がいいと、年端もいかないころから思っていた。

母はいつでも死にそうな顔でお勝手に立っていた。

死にそうな顔で洗濯機をまわし、死にそうな顔で掃除機をかけていた。

おれは「妻」という生き物には決してなるまい、と思った。