醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

あら煮

書きたい題材が決まって、でもなかなか書く時間を持てないことへの苛立ち。勤務後、ヒグラシ文庫へ。明日のイベントのリハーサルのため、今日のカウンターはニシさんの代打。日本酒三合、鯵の刺身、あおやぎのぬた。刺身を頼んだら、三枚おろしにした真ん中の骨と頭のところであら煮をさっと作ってくださった。骨からいい出汁がでていて、日本酒がすすむ。

魚の「あら」は、神奈川に棲むまでちゃんと食べたことがなかった。内陸の群馬で食べて育ったのは、冷凍の鮪、冷凍の秋刀魚、それから川魚。一緒に呑みに行って大根のあら煮なんて出てくると、母はいつも顔をしかめた。食べづらいし、大根が生臭くなる、と言って。食べ物の好き嫌いが意外と多い母であったということは、成人して一緒に呑み歩くようになってから初めて知った。おれはこ汚い居酒屋で呑むのが好きなんだが、母はどちらかというと女の子が行くようなこじゃれた店の方が好きらしい、というのもたいへん意外だった。娘も対外試合でだいぶ鍛えられて、呑み歩き母娘道中はこれからもっと面白くなる、と思っていた矢先に逝ってしまったのが残念でならない。

珍しくほろほろ酔う。帰ってから洗濯をして、ギターを弾いて歌う。山口百恵。冷蔵庫に残っていたほんのすこしの赤ワインをちびちびと飲む。