醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

室伏鴻 KRYPT

昼過ぎまでごろごろしている。ふくやへ。日本酒二合と、もってのほか(食用菊)とあおやぎの和え物、ししとうの塩昆布炒め、つったい肉そば。帰ってきて洗濯、掃除、執筆。

夕方、ヒグラシ文庫主催の室伏さんの舞踏を観に行く。会場で席案内役の順ちゃんに「ここが特等席だから!」と座らせてもらった席が本当に恐ろしいほどかぶりつきだった。

生涯学習センターの舞台の上に座布団と椅子が並べてあって、室伏さんは目の前で踊っている。瀬木さんの謎めいた重低音の音楽に合わせて、銀色の身体がぬめぬめと動く。舞台の上に散らばる無数の空き缶。そこに繋がった色とりどりの糸。客席のずっと裏手に潜んでいる黒子が糸を思い切り引く。急流のように缶が音を立てて転がっていく。

椅子席から見たらたいしたものではなかったかもしれないが、あまりにも目の前を缶が転がっておれの横をすりぬけて落ちていくので、おれはその缶の滝のような流れに飲まれてしまうかとおもった。一個だけ、おれの座布団に糸が引っかかって転がらずに残った。

舞踏というのは、何だろうね。他のダンスにあるような「美しさ」とは随分違う。即興とは、振付をあらかじめ用意しないことではなく、用意された型をその場で崩したときにたちあがるもの、であるらしい。何が起こるかわからない、人間の深淵。

銀色に身体を塗って四つ脚で這い回る室伏鴻は、裸だし人間の形はしているけれど、もはや人間には見えない。ほ乳類でもないように見える。暗い土の中で蠢く虫。深海に漂う軟体生物。舞台の端に消えゆくとき、差し出された缶ビールを呑もうかどうか迷った。おれは小心者だ。

ヒグラシ文庫で観てきたひとたちと合流する。日本酒1合、金宮ロック。かまかまの打ち上げを覗く。緑茶ハイ。室伏さんとハグをして別れる。ヒグラシ文庫へ戻る。生ビール、くじら刺。

深夜、胃より上(心臓? 肺? 食道?)のところが締め付けられるように痛み、もがき苦しむ。