ふつう
ヒグラシ文庫でレモンサワー。知人と待ち合わせをして、とのやまへ連れて行く。
瓶ビール、八海山、白波の水割り、生ビール。
やきとりと酒盗チーズ。
仕事が終わって、駅のトイレで髪をほどき、真っ赤な口紅をぬるとおれは「野原海明」に戻る。瞳に力が満ちるのがわかる。
もさもさの髪、眼光、真紅の口紅。オッサンのように酒を呑む。そうしているとおれは、あまり「ふつう」には見えないらしい。
中学生のころ、おれは「ふつう」であることに憧れた。それはとても遠いものに思えた。
人並みであること。飛び出しすぎず、落ちこぼれすぎないのが狭いコミュニティの中ではいちばん楽だ。
でも、「普通の人」なんて本当はいない。
みんなどこかしら凹凸を抱えて生きている。
だからおれは、小説を書く。