醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

家と遊ぶ

昼までごろごろしている。休みの日の、秋のやわらかい日ざしがシーツにふる。

この十月はずいぶんいそがしかった。今日はイベントをお休みして、独りでのんびり家と遊ぶことにする。

ほとんど、家には寝に帰るだけになっていた。畳のあちこちに埃が溜まっている。家に話かけながら、部屋を片付ける。

湯を溜めて、風呂にはいる。バイブルのように何度も読み返している、高山なおみの「日々ごはん」を湯船に持ち込む。

日々ごはん〈1〉

日々ごはん〈1〉

料理はしないこともないし、それほど下手でもないはずだけれど、苦手だ。というより、台所という場所がおれは恐いのかもしれない。

母は義務として台所に立った。愛することのできない男に食事を採らせるために。台所に立っている母の顔は、蛍光灯の明かりの下で能面のように貼付き、青白く光っていた。

だからおれは、ひとに料理をつくってもらうことがとても恐い。

台所で背を向けているそのひとの顔を前に回って覗き込んだら、そこには苦しみと憎しみの表情が浮かんでいる気がしてしまって。「料理が好き」という言葉を聞くと、信じられない思いがする。母だってもともとは料理好きだったはずなんだが。

学生時代、食事はたいてい学食で済ましていた。だけれど「日々ごはん」に出逢って、そうか、ひとはこんなに楽しそうに、ごくあたりまえに、毎日料理をすることができるのか、とおれは感動してしまったのだ。

ふくやへ。ハートランドビールと芋煮カレーそば。すごくひさびさの呑み友達に遭遇。帰って来てから、掃除して、本棚の本を整理する。古い手帖を片付ける。蝋燭を点して、香を焚く。紅茶を淹れる。そういう生活を、昔ゆとりがあったころはよくやっていたなぁと思い出す。

あの頃は、仕事がしたくて膿んでいた。壊してしまった躯をなだめて、毎日のんびりと掃除し、洗濯をし、「日々ごはん」を読みながら料理をつくったりもした。今思えば、随分贅沢な生活だった。

平穏な生活のなか、有り余る時間を使って、小説を書こうと試みていたけれど、どうしても「売れること」とか「稼ぐこと」にしか眼がいかなくなっていて、奇をてらったものばかり書こうとしていた。そのくせ自分の技能が追いついてこないので、書き上げることはできなかった。

ギターを引っ張りだして歌う。大家さんちに家賃を払いに行く。きんぴらごぼうをお裾分けにもらう。

やっぱりダンスでも観に行こうか、と思ったけど、冷蔵庫を開けたら赤ワインとチーズがあったので家で呑むことにする。戸棚に奇跡的にパスタも残っていたので、すごくひさしぶりにタマネギのスパゲッティをつくる。これは有元葉子さんの本に載っていて、学生時代から数えきれないくらいつくったもの。

時間をかけない本格ごはん、ひとりぶん

時間をかけない本格ごはん、ひとりぶん

すごくシンプル、簡単で美味しいし、ワインに合う。

「日々ごはん」を読む。日記が溜まっていたので、ブログを書く。