〔小説〕 着信 “それじゃ、つきあおっか”
「せんせいはカレシいるの?」
教育実習に出向いた先で、中学二年の女の子に訊かれた。
「秘密」
「えー、っていうことは、いるんだ!」
「実習生はさ、そういうこと教えちゃいけないの」
「ふーん、めんどくさいね。……あのね、」
教室掃除用のほうきを握りしめて、彼女は言いよどむ。
「なあに」
「ワタシはいるよ、カレシ」
「そう、すごいね」
私が中二の頃は、男子と普通に話すことさえ出来なかったのになぁと、感心する。
「告白したの?」
机と、それに重ねた椅子を運びながら訊いてみる。
「告白っていうか……メールでそういうことになった」
「そういうこと?」
「お互いつき合ってるひといないし、いいかなって」
唖然としてしまう。
「そういうもんなの?」
「そうだよ。みんなそうだよー」
でもそうか、そうやって気軽に恋愛ゲームみたいなものをする時期も、必要なのかもね、と思ってみる。
「それで、彼のこと好きなの?」
「うーん……まだよくわかんない」
恋に落ちるより先に、彼氏をつくりたかったんだね。そこから恋が始まるのかもしれないけれど、でももったいないような気が私はしてしまう。 焦らなくてもいいじゃない。恋は、しようとしてするもんじゃないよ。そう云いたいけど黙っていた。もうすぐホームルームだ。
「付き合いましょう」で始まるのではない恋を、きっといつかは彼女もするんだろう。目があった、ただそれだけではじまってしまうような恋を。