醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

田中泯『場踊り』-カラダトアタシ-

逗子駅からバスに乗る。葉山へ向かうバスは随分と細い道をうねうね走る。民家の合間に時折海が覗く、降りたのは神奈川近代美術館葉山館の前。 先に降りた人たちは、エントランスの横をすり抜けていく。よくわからないけど、その後をついていく。

美術館の裏側、岬に広がる海と斜面に繁る松林。普段なら立ち入る人も少ないであろう木立の中に、何故か人だかりができている。 白い美術館の壁際にブロンズ像が立っていた。

……いや、呼吸している。

よく見れば、田中泯。

ブロンズの色に光を反射させる、身体に塗りたくった塗料。筋肉質な腹が空気を吸っている。時間が粘性の金属をひっぱるように伸びていく。真っ青な空、冬なのにやけに照りつける陽射し、光を拡散させる白壁、眼下に広がる群青の海。潮騒。誰も何も喋らない。ただその動きを、息を詰めて見ている。

やがて彼は壁際を離れる。ぞろぞろとついていく観衆たち。幼い少女から、白髪の老人まで。外国人の姿もある。まさに老若男女だ。 みんな無言でついていく。枯れ草に覆われた斜面をよじ登り、ときに転げ落ちて草まみれになる人もいる。それでも誰も何も云わずについていく。憑かれたように。そんな自分たちの姿が可笑しいのか、知らない者同士目を見合わせる。 はじめは皆遠巻きに見ていたのに、次第に距離が近づいていく。田中泯の姿は人垣に埋もれてしまって見えない。 ずるずると、斜面を落ちていく。

やがて、高台に立たされたアントニー・ゴームリーの彫刻の背に立つ。海面が眩しい。彫刻とよく似た人影が波を待って浮かんでいる。遠く、遠くに。 ゆっくりと、腕をひろげる。 無機物の身体と有機物の身体が、似たような色と質感をして潮騒のなかにただ立っている。

現在も、土方巽と恋愛しています。

泣かせるじゃない。

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アントニー・ゴームリー 彫刻プロジェクト IN 葉山《TWO TIMES-二つの時間》 パフォーマンス「田中泯『場踊り』-カラダトアタシ-」