マザー・コンプレックス
母親を亡くすというのは、ある意味では解放だ。でもそれは、女にだけあてはまる感覚なのかもしれない。
「天国の母親に恥じないように生きたい」と男性の呑み仲間が言った。なるほど男と母親とは、死に別れてもイチャイチャの関係なのね、可愛いわねなんて思って笑ってしまった。ごめんね、笑ったりなんかして。
女にとって同性の親は、どんなに深い親子の愛情があっても根本的には敵なのだ。それは、「乗り越えていくべき存在」としての男にとっての父親とはまた別のものであると思う。
娘は母親の前で「女」であってはいけない。
母親よりも美しくなってはいけないし、魅力的になってはいけない。
母を亡くしたのは辛いことではあったけれど、おれはもう母親の娘を演じなくてよいのだと思うと、ほっとする。
母と居るときのおれは、母をより薄くしたようなコピーでしかなかった。母が死んで、おれはようやくおれとして生きられるし、人の道を踏み外すことも出来る。