醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

〔小説〕 霊柩車

霊柩車の助手席に乗って、病院を出る。

母の運転で数え切れないほど通った国道十八号線の高架。今母は物言わぬ物体になり荷台に積まれ、運転席にいるのは見知らぬ葬儀屋のドライバーだ。

行き交う車のヘッドライト。赤く光るテールランプ。暗く空に沈む観音山。これが最期のドライブだね。もう何も答えない母に、胸の中でそう話しかける。 見慣れた故郷の町がひどくよそよそしい。

やがて葬儀場の控え室に着き、母の顔の上には白い豪奢な布が掛けられる。用意してもらった祭壇で、最初の線香をあげる。

薄暗い畳の部屋で、久しぶりに母と二人きりになる。そっと布をめくってみる。疲れきって、炬燵でぐっすり眠っているときの顔とかわらない。でももう硬直が始まっていて、唇に触れてみるとやけに固くて、はっとしてしまう。

がやがやと、親族の車が駐車場に着く音がする。布をかけ直して、彼らを迎える為に外へでる。送ってくれた霊柩車が同じ場所に停まっている。街で霊柩車を見かけると、いつも親指を隠した。親が早く死んだりしませんように、というおまじない。もう、そんなまじないをする必要はなくなってしまった。

まだ、涙は出てこない。

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