醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

夢なんてなくてもやりたいことを選ぶのが進路ってもんだろ

母校の進路指導の授業に呼ばれて、「先輩の経験談」とやらを話しに行ったことがあった。

ほぼ半数が高卒で地元の職に就く山奥の高校である。大学へ進学するのは一割、それも推薦がほとんど。ほんとのところ、おれの経験談なんて大多数の後輩たちには役に立たないのだ。

現役大学生のおれの他に、ビジネス系の専門学校を出て講師になったおれの同輩と、高卒で地元の中小企業に就職した先輩が呼ばれてきていた。どちらも立派な社会人だ。おれだけやけにふらふらとしている。

ビシッとスリムスーツを着こなした同輩は、高校時代の面影も遠のき、知らない人のように見える。社会の厳しさと社会人の責任とマナーについて、はきはきとした声で語っている。

つなぎを着た先輩は、ものすごく大きな明るい声で挨拶をして、挨拶の大切さを語した。ちょっと荒れていて恐かった先輩は、にこにこ笑いながら眼には厳しさを滲ませる、立派な勤め人になっていた。

学生のおれは、これは参ったなと思いながら教壇に立つ。社会人の二人の卒業生に圧倒された後輩たちの顔を見渡す。

彼らのこれからの人生について、しばし想いを馳せる。親御さんや先生に、いろんなことを言われているんだろうなぁ。家計が苦しいからとにかく就職しろ、だとか、手に職をつけたほうがいいから専門学校へいけ、とか。とりあえず大学へ行ってみろ、なんて言われてるやつは少ないんだろうなぁ、なんて考えながら。

「○○や○○先輩のようにきちっとした話はできないけど…」と断って、おずおずと話し出す。そのとき話したことは、だいたいこんな感じ。

ええっとさ、みんな、卒業したらどうしたいと思ってる?

私はこうして大学生をしているけれど、一年生の時は就職するつもりでした。

そもそも、成績が良かったら進学校にいって、みんなで一斉に大学受験する、なんていうありきたりな道を歩きたくはなくて、この高校を選びました。

大人たちは、いろんなことを言うよね。「好きなことを仕事にしたら食べていけない」とか、「とりあえず専門学校だけでも出ておけ」とか、「もっと真面目な恰好をしないと就職口なんてみつからないぞ」とか、「いま我慢すれば後で楽になるから、今やるべきことは受験勉強でしょう」だとか。

私もたくさん言われました。そのたびに、腹を立てていた。「十代の最後の、この貴重な、人生に二度とはやってこない季節を、勉強やら何やらで費やしてたまるか!」って。そして、いまでもそう思っています。

今日、みんなに伝えたいことは、「自分の夢を守って欲しい」ということです。

「夢」なんていうと大層に聞こえるかもしれないけれど、「将来何をやりたい」とか、「こういう職業につきたい」とか、そういうことじゃなくてもいいんです。もっとくだらなくていい。「女子にモテたい!」とかさ、そういうので。「夢なんかない、わかんない」っていう人でも、そういう心から湧き上がってくる欲求って、あるよね。

そうやって、ほんとうにやりたいことに目を向けて、どんなにくだらないことでも全力でやってみることが、生きるってことなんじゃないかなぁと思う。「こうしなければいけない」とか、「こうあるべき」とか、「こうした方が楽そう」だとか、そういうことに自分の人生を裂かれちゃいけない。

後輩たちは、きょとんとした顔でこちらを見ていた。同輩の顔には、「何を甘いことを」って書いてある。先輩は苦笑いをしている。いいんだ、それで。

そんな話をした日から七年。おれはそうやって人生を選んできて、こうしてここで精一杯生きているよ。