〔小説〕 舌を入れて、いいよ。
夢。
おれが棲んでいた「実家」は、改装のため骨組みばかりしか残っていない。まるで木造の海の家みたいに。汚れた畳、吹き抜ける風。
おれは友達の彼氏と付き合っていることになっている。彼は畳の上に座り、おれに「キスをしよう」という。「舌をいれていいよ」、と。
おれは一瞬躊躇うが、お構いなく舌を挿し入れることにする。彼の口蓋と、まとわりつく舌の粘膜を味わう。その痩けた面に指を這わせて。
その家に棲む人はもうなく、がらんどうとしている。おれは彼の唾液を味わい、ただ通り過ぎていく風の心地よさを感じている。友達の顔が浮かぶ。薄情なおれは、なんの感慨も感じない。