結婚と、愛。
「結婚して、幸せにしてもらう。」
莫迦じゃないの、とおれは思う。
与える、与える、与える、与える。
それ以外のものは、愛とは呼ばない。
そして、幸せであること程、苦痛なことはない。だからおれは、いつも幸せの反対を求めている。
結婚にはなんの希望も持っていなかった。出来ることなら、そんな社会的な通俗は避けて通りたいと思っていた。
愛していた男がいた。その男とこの人生を終えてもいいと思っていた。結婚とは違う、遠い二人だけの世界で。月に数度やってくる男の為に食事をつくり、その厚い胸板に指を這わせる。それ以外に欲しいものなどなかった。そう、思いこもうとしていた。
本当は違う。おれはずっと、手を繋いで何処までも歩いていける伴侶を求めていたのだ。
見つめ合うことにはすぐ飽きる。そんな陶酔はひとときだけでいい。二人だけの世界は甘美だが、それはあまりにも脆い刹那の快楽だ。
何処かに、共に歩いていける男はいないだろうかと思っていた。愛していると思い込んでいた男の腕のなかでも、ずっと思っていた。(文:野原海明)