「つながる図書館」刊行記念トークイベント 猪谷千香×仲俣暁生×内沼晋太郎 「図書館はコミュニティの核になるか」を聴きにいってきました。
「つながる図書館」の刊行記念トークイベントを聴きに、下北沢の不思議な本屋「B&B」におじゃましてきた。
つながる図書館: コミュニティの核をめざす試み (ちくま新書)
- 作者: 猪谷千香
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2014/01/07
- メディア: 新書
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「つながる図書館」の著者、猪谷千香さん(@sisiodoc)は、産経新聞の記者、ニコニコ動画を経て、現在は日本語版ハフィントン・ポストの記者として活躍されている。なので図書館司書ではない。図書館の外側にいるかたから見た、日本の公共図書館の最先端。いま日本の図書館は、こんなにも面白い。
前半は、出版されて間もない「つながる図書館」をまだ読んでいない人のために、著者の猪谷さんより、本書に登場する図書館が紹介された。すべてはここに書ききれないけれど、興味深かったところを抜粋します。
ユニークな外観が特徴の「武蔵野プレイス」。ここは従来の「図書館」の定義には収まりきらない複合施設だ。
面白いことに、二十歳以上の利用者は入ることのできない「ティーンズスタジオ」なるものがある。勉強するもよし、好きな雑誌を読むもよし、バンド仲間を募集してみるのもよし。大人には秘密の、子どもだけの空間。そしてこのスペースは、夜の十時まで開かれている。親としては、深夜の街をぶらぶらされるより図書館にいてくれたほうが安心だ。安全なまちづくりにもひと役かっている。
小布施市(長野県)の「まちとしょテラソ」が面白いのは、「図書館では静かにしなければいけない」という概念を打ち砕いているところ。
突然、図書館員が閲覧席の机の上に座る。いったい何が? どうやら、肩こりをほぐすストレッチを教えてくれるらしい。閲覧席に座っている人は手をとめて、一緒にストレッチを始める。なにかが突然起きるのがテラソ流? もちろん、参加したくなければ参加しなくてもよいので、知らん顔をして調べ物を続けているひともいる。
そしてご存じ、武雄市図書館。
図書館に入ると、まずは蔦屋書店の販売コーナーがお出迎え。わかりやすく商売人気質が感じられる。閉架(利用者が立ち入れない書庫など)は作らないというポリシーがあるそうだが、専門書は「キャットウォーク」と呼ばれるスペースの、高い高い本棚に並べられているので、下からではどんな本があるのかよく見えない。利用したいときはスタッフを呼んで、はしごで取ってもらわなくてはならないから、実質は閉架か......。
有名な武雄市図書館とは対照的に、市民には愛されているがあまり有名ではない「伊万里市立図書館」が近くにある。
閲覧用のソファーの横に、何故か碁盤がくっついている。朝一、地元のおじさんたちが集まって此処で一局打つのだそうだ。情報だけじゃない、人とのつながりを提供する図書館の姿だ。そしてなぜか、図書館のなかにはお座敷もある。高校生がまるで自宅のように、畳の上に座って勉強している。じっくり静かに使いたい人向けには、子どもたちが集まる部屋からはかなり離れたところに書斎のようなスペースも用意されている。伊万里の焼き物にちなんで、登り窯を模した部屋もある。
伊万里市立図書館は市民の要望を取り入れてつくられた図書館だが、海士町の図書館は真逆の生い立ちを持っている。
海士町は島根県の離島で、Iターンの移住者を積極的に呼び込んでいる。人口約二千人のうち、一割が移住者だ。司書さんもIターンでやってきた人なのだそうだ。しかし、この町にはそれまで図書館がなかった。一度も使った経験のない人たちにとって、図書館は不要......。それならばと、まずは学校の図書室を充実させたら、子どもたちが自宅でも本を読むようになった。その姿を見て、大人たちの考えが変わったのだという。現在では「島まるごと図書館構想」という試みもされていて、港や古民家にも本棚が置かれている。
島根県立図書館はビジネス支援に力を入れている図書館だ。
図書館の入り口前には、いろいろな悩みに対応してつくられた、図書館の本を紹介したパンフレットが大量に並べられている。「離婚」「借金」......。どんな本が役に立つのかわからない。だけれどカウンターで直接聞くのは気まずい......そんな際どい悩みの解決の手がかりが見つかるかもしれない。島根県立図書館の司書さんのモットーは「司書は人脈が命!」。なんと情報だけでなくて、その専門分野の人まで紹介してくれる。
図書館は、いまだに「小説を読むのが好きでかつ暇な人が、お金を掛けずに本を借りに行くところ」というイメージが強いかもしれない。でも、確実に日本の図書館は変わり始めている。その変化を発信するのが、図書館関係者はあんまり上手でないのかもしれない。だけれどこうして、猪谷さんのような図書館の外にいるかたが「日本にはこんなに面白い図書館がある!」と発信してくださることで、さらにこの流れはひろまっていくはずだ。
後半は、猪谷千香さん(@sisiodoc)、仲俣暁生さん(@solar1964)、内沼晋太郎さん(@numabooks)による、これからの図書館のお話。
仲俣暁生さんは「マガジン航」という、本と出版の未来を考えるWeb雑誌の編集をされている。
内沼晋太郎さんは、今回の会場となった「B&B」を運営されている。本と一緒にビールなどのお酒も楽しめる、一風変わった下北沢の本屋だ。
御三方のお話で印象に残ったものを取り上げてみる。お顔の見えない最後列に座ってしまったので、どの意見をどなたがお話されていたかまでメモできず......申し訳ない。
図書館は「無料貸本屋」という批判を受けてきた。確かに、ベストセラーの本を何冊も所蔵してしまうと、売上が落ちてしまうように思う。書き手にとってそれは死活問題だ。だけれど「図書館で借りて読む人」は、「図書館に無ければ読まない人」なのかもしれない。新しい読者を増やすという意味では、出逢いの場として図書館は、もしかしたら売上に貢献しているかもしれない。
とはいえ、やっぱり何冊も何冊も、図書館が同じ本を持っているのは問題だ。予約が殺到してしまったら、近所の書店で手に入るかどうか確認して案内するというところまで、図書館はやるべきだろう。書店と図書館はもっと連携していい(だけれど、ある特定の書店と図書館が結びついてしまうと、その他の街の本屋さんにとっては不利益だ。公共施設である図書館はそれは避けたほうがいい......と野原は思う)。
どうして図書館は予約の多い本の複本を、寄贈のお願いしてまで集めようとするのか。それは、現在の図書館の評価基準が「貸出冊数」にあるから。何を基準に図書館を評価するのかというところから見直さなくてはならない。
ベストセラーや小説を貸出してはいけない、というわけではない。あらゆる分野の本があるのが図書館の魅力だ。図書館のサービスを知ってもらうには、初めはベストセラーを無料で借りるのが目当てで来館してもらっても構わない。新しい取り組みばかりではなくて、ただ「本が借りられるところ」という、これまでのイメージだってとても大切。
前半で紹介されたような、つながる図書館が増えていくにはどうしたらいいか。
まずは、そんな図書館があることを知ってもらって、住んでいる人たちに「よその図書館が羨ましい」と思ってもらうこと。多くの図書館は行政の中で弱小の機関となっていて、予算削減のために悪気もなく切られてしまうけれど、住民から声が上がれば行政は動かせる。外部からも、もっとはたらきかけていくべきだ。
質疑応答で出た質問は切なかった。図書館が好きで、図書館で働きたくて非正規で働いていたけれど、給料があまりにも低くて生活できず、断念した方からの質問だ。「図書館司書の雇用はこれからどうなっていくのでしょうか」
前半に出てきた図書館も、その多くは非常勤や嘱託、契約職員で支えられている。日本では図書館司書の専門性はなかなか認識されていない。まだまだ答えは出ないけれど、猪谷さんがこの問題について追っかけてくださると話されていた。
たとえば島根県立図書館の司書さんのように、「図書館で専門家まで紹介してくれるの!?」という、想像を超えたサービスができるような人が増えていけば変わるのかもしれない。図書館は本を借りることだけじゃなくて、こんなこともできるんですよという発信をどんどん広げていって、住んでいる人たちに図書館を好きになってもらうことも必要だ。
図書館界の外のかたが本を出し、図書館について語り合われた今回のイベント。日本の図書館がまた一歩進んだ感触を得た。参加できてよかった。
次は、これに参加したいなぁ。
つながる図書館: コミュニティの核をめざす試み (ちくま新書)
- 作者: 猪谷千香
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2014/01/07
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- 作者: 内沼晋太郎
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