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醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

〔小説〕 ころぶ

豪快に酔っ払ってふらふら帰る道すがら、よろけて膝をついてしまって、わー恥ずかしいと思いながら家に辿り着く。ひとまず炬燵に潜り込んで眠る。

深夜に目覚めたら、床や畳やソファーにぺとぺとと血の跡がついていた。今年買ったばかりのズボンは膝小僧が破れて朱に染まっている。思ったより派手に転んだらしい。擦りむいていない方の脚は、転んだ後にかばったのか、ひねったように痛い。心細くなってジロウに電話をしたらしいが、そのへんは酔っ払っていたのであんまり覚えていない。

翌朝は人と逢う用があったので、無理やり起きてシャワーを浴びる。一枚だけあった大判の絆創膏を貼る。よし、なんとか歩けそうだ。よしっ、よしっ、と気合を入れる。朦朧としながら酒臭いまま用事をこなし、家に帰ってからパジャマに着替えてまた倒れるように眠る。

夕方を過ぎてもまだ自分が酒臭い。歩くのにも気合がいるので、出掛けるのは諦めることにする。あまりにも呑みに行きたかったのか、夢の中で呑みに出掛けている。そこは荒れ地の端にある呑み屋で、焼き鳥の「とのやま」のマスターが主人をしている。安いチェーンのラーメン屋か、田舎の中華料理屋みたいな内装で、でもメニューには地酒やら酒に合う肴やらが並んでいる。カウンター席は立ち飲みになっていて、常連客はマスターと話したいのか、団体でもそっちを使うのが好きらしい。他にはテーブルと椅子の席が四卓。賑わっていてほぼ満席だ。回転もいい。

カウンターの隅っこで呑む。初めて来た店なので客に知り合いはいない。数あるイカのメニューで迷っていたら、マスターが「これにすれば」と面倒臭そうに選んでくれる。ダイオウイカの大きな切り身を一夜干しにしたやつ。マヨネーズと七味と醤油でいただく。見たことのないラベルの地酒を啜る。

日が暮れてきた。