読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

猪谷千香×岡本真「これからの図書館を考えてみよう」―『つながる図書館』刊行記念トークイベントにおじゃましてきました。

猪谷千香『つながる図書館: コミュニティの核をめざす試み (ちくま新書)』刊行記念トークイベント、猪谷千香×岡本真「これからの図書館を考えてみよう」に行ってきました。以下、イベントでお二人が語られたことをまとめます。

つながる図書館: コミュニティの核をめざす試み (ちくま新書)

つながる図書館: コミュニティの核をめざす試み (ちくま新書)

猪谷千香×岡本真「これからの図書館を考えてみよう」――『つながる図書館』刊行記念 @sisiodoc @arg | Peatix猪谷千香×岡本真「これからの図書館を考えてみよう」――『つながる図書館』刊行記念 @sisiodoc @arg | Peatix

会場は五反田の「ゲンロンカフェ」。小説家の東浩紀氏がプロデュースしているイベントスペース&カフェだ。

genron cafe | ゲンロンカフェgenron cafe | ゲンロンカフェ

登壇者お二人と図書館との関わり

まずは登壇されたお二人をご紹介。お二人とも、図書館職員ではない。

猪谷千香さん @

大学時代は考古学専攻。学芸員を目指すものの空きが無く、産経新聞の記者となり、文化部担当を務める。菅谷明子『未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告― (岩波新書)』に触発され、個人でアメリカへ渡りニューヨーク市の図書館を取材。その後、mixiGREEなどSNSの取材をし、これからは情報の流れ方が変わると確信。新聞社から飛び出してニコニコ動画へ転職する。さらにハフィントン・ポストに移り、現在に至る。『日々、きものに割烹着』を執筆して知り合った編集者が新書担当に異動となり、企画を求められたことがきっかけでできた本が、今回刊行された『つながる図書館: コミュニティの核をめざす試み (ちくま新書)』だ。

ハフィントンポスト -  ニュース速報まとめと、有識者と個人をつなぐソーシャルニュース(ハフポスト、ハフポ)ハフィントンポスト - ニュース速報まとめと、有識者と個人をつなぐソーシャルニュース(ハフポスト、ハフポ)

岡本真さん @

アカデミック・リソース・ガイド代表。READYFOR?の運営会社取締役も務める。かつて勤務していたYahoo!では、サーファーという、サイトをひたすらカテゴリ別に登録していく業務を任されていた。図書館のレファレンスに近いサービスをネットでもという発想から、Yahoo! 知恵袋を立ち上げる。3.11以後は、被災した図書館や博物館支援のため、saveMLAKというプロジェクトのリーダーを務めている。現在、新たに図書館本を企画中とのこと。楽しみです。

ACADEMIC RESOURCE GUIDE (ARG) / アカデミック・リソース・ガイドACADEMIC RESOURCE GUIDE (ARG) / アカデミック・リソース・ガイド

猪谷さんが始めにお話していたこと。図書館について書かれた本は複数出版されているけれど、どれも「図書館をどう使うか」というノウハウ本ばかり。図書館の中の人は、図書館を広報するのがもしかして下手? 内に留まっていては始まらない。もっと外部と接触していくことが、これからの図書館の鍵である。「利用者リテラシー」を高めること。多くの人に図書館について、もっとよく知ってもらうことが大切なのではないか。

武雄市図書館について

今や話題に事欠かない武雄市図書館。twitterでちょいと武雄市図書館のことをつぶやけば、反対側も賛成側もどやどやと集まって火祭になりかねない。だけれど、そうやって武雄市図書館のことばかりが騒がれること自体が、日本の図書館の未熟さを表してると岡本さんは言う。NDCに頼らない独自分類も、365日開館も、武雄市が初めてじゃない。みんな、あまりに図書館のことを知らないだけ。まだ始まってから一年も経たない武雄市図書館。行政が運営する施設は、約三年で職員ががらりと異動になる。市長が去り、立ち上げに関わった職員が去った後に、どうなるのかが評価のしどころとなる。

蔦屋書店のような美しいレイアウトを得意とするCCC。図書館のノウハウを育ててきたTRC。海老名市では両者が連携して新しい図書館を企画しているという(これはどうなるか、楽しみだ)。

図書館を指定管理者に任せてしまうことがそもそもの間違いだという意見がある。だけれど、指定管理者制度が始まって早十年。もう引き返せないところまできている。直営だからいい図書館が運営できるわけではない。ましてや、指定管理者に任せれば良くなるかというと、それもまた違う。もしコスト削減のために指定管理にするというのなら、それは大きな間違いだと岡本さんは言う。かえって指定管理の方がコストがかかる場合が多いのだそうだ。

指定管理のノウハウを持っている大手の企業が請け合うだけじゃないケースも増えてきている。自分の町の図書館が指定管理に踏み切るらしい。それなら、もっと自分たちの手で図書館を良くしたい。そんなふうに考える住民たちが立ち上げたNPOが、指定管理者となるケースもある。この場合は、地域との横のつながりが強いので、公共図書館としてはうまくいく場合が多いという。

日本の図書館は税金で運営するのが当たり前になってしまっている。ニューヨーク市の図書館はそうじゃなく、財団によって支えられている。指定管理者制度は、図書館の新たな財源を切り拓く道になるのかもしれない。

神奈川県立図書館問題について

岡本さんが携わった神奈川県立図書館問題について話はうつる。神奈川県立図書館と、横浜市立図書館はすぐ近くにある。これは二重行政ではないかということで、県立図書館のサービスが大幅に削られることが検討されていた。岡本さんたちの活動はこれに歯止めをかけた。

一番大事なのは、「変に戦わないこと」というお話が印象深かった。反対声明や署名をしても無駄。行政側も、綿密な試算のもとに計画を立てている。それに相手も人間なのだから、まっこうからぶつかってみても対立するばかりだ。大切なのは、ぶつかることではなくて「こうするともっといいですよ」「こうしたほうがかえって合理的ですよ」という提言を出すこと。そのために、まずはローカルメディアを使った情報発信をする。全国紙に訴えるのではなく、地元の議員が必ず目を通しているであろう神奈川新聞に記事として取り上げてもらう。そうして議員に関心を持ってもらった上で、議会で市長に質問を投げかけてもらうことが成功の鍵。

政治家にとって、図書館は票になるものだ。現在の教育を受けてきた人たちで、図書館というものを知らない人はそうそういない。なにかしら皆、図書館に関する思い入れがある。図書館は、中の人が思っている以上に周りから注目されている。そのことは、岡本さんの運営するクラウドファンディングの「READYFOR?」で、図書館関係のプロジェクトが成功を続けていることが裏付けている。

まとめに:公共図書館とは何であるか

公共図書館とは、最低限の社会保障である。

本は、家に居たままでも、Amazonでぽちっと買える。でも、そうできない家庭もある。本を買えない家庭で育った子どもは、本を見ることもなく育ってしまう。誰でも無料で、好きなだけ情報に触れられること。それは肝心なインフラ整備だ。行政にしてみたって、きちんと稼いで納税してくれる市民が育たないと困るのだから。

図書館のホームレス問題がある。彼らが放つ「しばらくシャワーを浴びていない人の臭い」に、他の利用者は辟易して追いだそうとするのだけれど、本当は彼らのためにこそ、無償の図書館があるべきなのだろう。

質疑応答

ニコニコ動画の方から図書館のPRについて質疑があった。最初に猪谷さんもおっしゃっていたけれど、図書館の人は広報が下手なようだ。twitterFacebookを使う方法もあるけれど、職場でインターネットをいじっているとサボっているように見られてしまうような気がしてなんだか気が引ける。もっと外部のIT関連の方々が、民間だけじゃなくて行政にも働きかけてほしい。たとえば、ニコニコ動画なら絵本の読み聞かせをするなど、いろんな方法があるんじゃないかと岡本さんがおっしゃっていた。権利問題が難しいけれど、すべての絵本作家さんがNGをつきつけてくるわけじゃないはず。どんどん、ネットで読み聞かせしてくださいという作家さんもいるはず。

いろいろ漏れはあるかと思いますが、以上、トークイベントの内容をざざっと連ねさせていただきました。猪谷さん、岡本さん、三時間にわたる休憩なしの長丁場、ほんとうにおつかれさまでした。