醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

十月某日

図書館で勤務後、自宅で少し仕事をする。ジロウ(ダンナ)が呑みに行きたくてうずうずしているので、一緒に出掛けることにする。酒場で出逢った二人は、やたらアルコール消費量の多いフーフである。

「あさつき」で日本酒、いさきの刺身。ブリの刺身はおまけでつけてもらう。

カウンターの上、湯がいたマグロがタッパーに入っている。「これ、猫のごはん」大将が言う。「うちには可愛い子ちゃんが二匹もいるからねー」

ヒグラシ文庫。常温、鯖サンド。

同じビルにあったラーメン屋が、いつのまにか焼き鳥屋になっている。ひやかしてみることにする。日本酒の種類が豊富だけれど、六〇〇円~八〇〇円。焼き鳥も全体的に値段が高め。

なんとなくもやもやとしたものを抱えて店を出る。店先でばったり友人に逢う。一緒にハジちゃんの店に雪崩れ込む。焼き鳥屋で八〇〇円だったのと同じ銘柄の日本酒を四〇〇円で堪能する。

店のホスピタリティとは、なんなのか。勢いづいてマイクスに行ってみることにする。高いなら高いなりの満足感が必要だ。

蕪をつまみに、ブルドッグをいただく。とても落ち着く。

調子づいて、「カクテルはよくわからないのだけれど、甘いお酒は苦手なんです」と言って、おすすめをつくってもらう。ドライ過ぎるくらいドライなマティーニが出てきた。マイクスに手品をねだる。

グラスを干すと、ぐらりとマイクスの姿が揺らいだ。久しぶりに並行感覚を失っている。店を出る。店先でばったり、友人に逢う。もう一軒行こうとするジロウを制して帰る。

なんとか家に辿り着く。畳の上に転がって、「洗面器を持ってきてくれ―」と騒ぐ。吐くだけ吐いて、そのまま寝てしまう。

翌朝はとても頭が痛い。歩くとふらふらとして気持ちが悪い。完全な二日酔いだ。

前回ここまでひどく呑んだのは、そうだ、あれは図書館司書の非常勤嘱託員の採用を受ける前日。

おれはまだ迷っていたのだろう。役職もなくなり、給料はこれまでの半分以下になるという、その選択を。椅子に腰掛けるのさえままならない状態で面接に出向き、これで落ちてしまうのなら縁が無いのだと思っていた(結局は補欠合格となり、四月から採用が決まった)。

昼過ぎまで寝ている。ジロウがおかゆを作ってくれる。なんとなく物足りないというと、長芋のざく切りを作ってくれる。

ポテトチップスをつまみながら、図書館で借りてきた、高山なおみさんの本を読む。

明日もいち日、ぶじ日記

明日もいち日、ぶじ日記

高山なおみさんを知ったのは学生のころで、『日々ごはん〈1〉』のシリーズをむさぼるように読んだ。好きなことを仕事にして生きていくとは。一巻の二〇〇二年、高山さんはまだ「クウクウ」で働いていた。二〇一一年の日記、『明日もいち日、ぶじ日記』では、たくさんの連載を抱えている。好きなことだけを仕事にして生きる日々。その変遷。

スイセイさんとのフーフのあり方に憧れていた。毎日そばにいるから少しうっとうしく、でもいなければ淋しい。嬉しいことがあったら二人で乾杯する。言いたいことを言い合ってケンカをすることもある。深いところでお互いを知っていて、どちらかが沈んでいるときには慰めることができる。結婚には抵抗があったが、そうやって共に生きていける相手は欲しいと思っていた。

ジロウが寝ている横で、感慨深く一番新しい高山さんの日記を読む。

「お腹が空いた」と言って、ジロウが突然キーマカレーを作る。タイ米ジャスミンライスを鍋で炊いてくれる。お腹がいっぱいになると、また睡魔がやってくる。

夜八時過ぎに起きる。ようやく風呂に入るだけの元気が出てくる。夜はひんやりと冷たい。久しぶりに湯船に湯をはる。少し仕事をする。

十時。ジロウはまだ寝ている。なんとなく寂しくなって、焼き海苔などかじる。

ジロウが起きてきて、「お腹空いたの?」と言う。冷蔵庫を開けて「枝豆なら、すぐに温められるよ」と言う。ほかほかの枝豆を頬張る。

「やっぱり枝豆だから、ビールが欲しいよね」と、雨の中ジロウがコンビニへ買い物に行く。エビスビールで乾杯する。出かけられなかったオクトバーフェストの代わりに。