「幸せになるため」なんかじゃない。一緒に人生を冒険すると面白そうだから、結婚しましょ。
鎌倉に越してきて、一番最初にできた友達がミネくんだった。
2009年の8月に鎌倉に越して、ミネくんが当時勤めていた美容室に始めて行った2010年6月までは、一人も顔なじみがいなかったのだ。そしてその頃、まだおれは野原海明じゃなかった。鎌倉でおれの古い名を知っている友人は、ミネくんとカナッペくらいじゃないだろうか。
ヒグラシ文庫を知ったのもの、ミネくんと瓜南さんのツイッターでの会話を見たからだった。おれを地元に繋いでくれて、ほんとうにありがとう。
そのミネくんが、カヨちゃんと晴れてゴールイン。なんて目出鯛!
本に縁のあるふたりには、参列者から一冊ずつ本が贈られた。おれは高山なおみさんの「たべるしゃべる (文春文庫)」を持っていった。料理家の高山さんが大切な友人たちの家に訪れ、その台所で料理を振る舞いながらお話を聞くというエッセイ集。
始めて読んだのは大学生の頃。結婚に理想を抱けなかったおれに、「いや、誰かと共に生きるということは、素晴らしいことかもしれないぞ」と思わせてくれた本。
高山さんの友達の、カトキチとアムちゃん(彼女は自分のことを「アムちゃん」と呼ぶ)は、アムプリンというお店をふたりでやっている。この本に登場した当時はまだ都内で移動販売をしていたけれど、今は北海道の大草原に小さな家を建てて、アムプリンという冒険を続けている。コロちゃんは柴犬で、大切な家族の一員。
「アムちゃんは、本当にひとりになりたくて、そういう時は、カトちゃんもコロちゃんも受けつけなくて、部屋にとじこもって、ごはんも食べれなくて、布団をかぶって何日も仮死状態みたいになる。でもね、自分ではそれがふつうのことで、ただたんにこういう人だと思っているだけなの。日本ではそれが病気ですって言われても、病気とかない国に行ったら、ただのそういう人でしょう?」
カトキチはそんなアムに言ったそうだ。「じゃあアムちゃんは、そういう性格の生き物として、浮き沈みの波を、自由に思いっ切り味わって、やりたいように生きればいいじゃん!」
それを聞いてから、アムはぐーんと楽しくなった。*1
アムのそばにいつもいると、アムの目を通して見たり、考えたりするようになった。そうすると、いろんなものが新しく見えてきて、自分の世界がぐんと広がった。そういういちいちがおもしろくて、都会で暮らしながらプリンを売っているだけで、本当は充分楽しいと思っている。でも、「アムちゃんは、ただ生きているだけでもたいへんな人だから、たいへんじゃなくするために北海道に行くことにした。それに、アムちゃんの夢の暮らしはスゲーおもしろそうだから」と、カトキチは言います。*2
どちらかがどちらかに依存するのではなく、お互いを支えながら生きていく。一人でも生きられるけれど、二人でいればもっと楽しいから、一緒に生きていく。「幸せにしてもらう」とか「幸せにする」とかじゃない。ふたりで人生の冒険をしよう。たいへんなときも、ふたりなら大丈夫。
結婚、おめでとう!