図書館職員から転身、フリーランス八ヶ月目を向かえて思うことなど
毎朝、目が覚めると真っ先に、半ペラの原稿用紙を三枚、なんでもいいからとにかく埋めるという、瞑想的なことをやっていた。瓶底みたいな分厚いメガネを掛け、寝間着のままで。六畳一間のアパートは、二人分の布団を敷くと他に足の踏み場もないので、自分の布団を半折にして、机に座れるようにする。ダンナが寝息を立てている横で、半分だけカーテンを開けて机に向かう。
三枚埋めるのに、おおよそ三十分かかる。三十分かかっても埋まらない日もある。とにかく、埋まるまで机に座っている。生欠伸が止まらない。早くシャワーを浴びたい。身体は半分、机から離れたがってうずうずとしているが、それでもとにかく万年筆を握るのだ。
それから、仕事にとりかかる。しかしすでに消耗していて、逃げ出したくなる。
このままではいかん、と思い、ついに筆を置いた。大学受験を控えた、浪人生活を思い出しながら。目が覚めたら速攻でシャワーを浴び、髪が乾くのも待たず仕事に向かう。定時の仕事がなくなって、いつでも臨戦態勢を取る必要があった。朝も夜も昼も関係なく届き続けるメール。始めの頃は気持ち悪くて定期的にしか見ないようにしていたが、それでは間に合わないことがわかってきた。
いっとき、自分を仕事に染める決意をする。抵抗しようとするスイッチをオフにして、まずは仕事人間になる。酒場に行っても「仕事がー、仕事が―」と言い続けて飲み仲間たちに呆れられるのだが、それでも構わず突っ走るのだ。
そうして、七ヶ月が経った。仕事まだうまく回せていないが、「たぶんこうやると回せるようになるのだな」ということが見えるようになってきた。そろそろ、受け身をやめる時期だ。
未知の仕事は恐ろしい。どうしていいのかまったくわからないので、とにかく相談して、言われたとおりにしてみる。でもやってみると、「言われたとおり」にやっているだけではうまくいかないことがわかる。結局は現場にいる自分が、自分の頭で考えなくては始まらないのだ。
おれは一極集中型だ。ひとつの仕事に取り掛かったら、四時間でも五時間でも飽きずに集中し続ける。でもそうしていると、「目の前の作業」しか見えていないことに気づかない。作業が終盤にさしかかったとき、「はて、この仕事のもともとの目的はなんだったっけか」と首をかしげてしまうことも多々ある。がむしゃらに舟を漕ぐ自分と、帆先で舵を切る方向を見定める自分とを持たなくてはならない。
そしてそろそろ、おれはおれの道を歩かなくてはならない。
聞き取りづらい声や愛想笑いで自己保身していてはいけない。もっと図太く、図々しく、豪快でありたい。