醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

野外アングラ劇団「水族館劇場」の新人団員になりました

f:id:mia-nohara:20170827110015j:plain
(撮影:大町ジロウ)

水族館劇場という劇団を知ったのは2011年の秋。一度は活動休止した劇団が、3.11後に蠢き始めた時だ。ヒグラシ文庫の裏方スタッフとして参加し、その冬には、さすらい姉妹という水族館劇場から派生した路上芝居ユニットの公演も観に行った。何も知らずに行った寿町は異世界で、一歩路地を入ったところからもう舞台装置みたいだと思った。でも、汚れた服でよろよろと歩き、地べたに座って酔い潰れているおっさんたちの街は現実だ。冬を越せずに倒れていく人もいるだろう。そんな死との近さや極限状態もみんな現実だ。

[http://mia.hateblo.jp/entry/2017/04/23/000000mia.hateblo.jp

そんな光景をとても遠い世界のように感じていた。避けて通るべき場所。でもそこに棲まうのは、あまりにも人間らしい人々だ。芝居なんて観たって腹が膨れるわけじゃない。それでもなけなしの千円札を役者に握らせる。生きて年の瀬を越えられる互いを確認し合うように、冷えきった蜜柑が汚れた手から手へ受け渡される。

それから6年が経ち、おれは公共サービスのコンサルの仕事をして食うようになった。「誰もが情報にアクセスできる場所を」「誰もが気軽に立ち寄って言葉を交わせる場所を」なんて言いながらと図書館をつくったりしているが、そうして生み出された公のサービスは、寿町で正月を迎える人々の元には届くのだろうか。いや、おそらく彼らの存在は、社会の中に始めから無かったかのように忘れ去れていくのではないか。

「海明ちゃんが舞台にばぁぁーん!と出てきたら、面白いじゃなーい?」
水族館劇場のプロデューサーであり、ヒグラシ文庫の店主である中原蒼二が酔っ払ってそう言うのでおだてられて、ちょうど一年前に古本遊戯 流浪堂で開催された報告会「終わりなき銀河に旅立つために」に参加した。繰り返し語られる「公共は敵だ」という言葉が、グサグサとおれに突き刺さる。綺麗事ばかり並べ立てて仕事をしている自分を責め続けられているようだった。

mia.hateblo.jp

たぶん、この報告会に出なければ「ちょっと舞台女優をしてみたいだけ」という興味本位で終わって、うっかり劇団員になることはなかっただろう。公共施設コンサルという自らの仕事へのアンチテーゼみたいにして、おれは舞台に立ってみたいのだ。芝居に命をかけている役者陣の中に、おれのようなのが混ざるのは失礼だろうか……と逡巡する暇も無いくらいに、すべてのタイミングが奇妙に絡み合い、気がつけばすんなりと新人劇団員になっていた。初舞台は6年前に衝撃を受けた寿町、その場所である。

f:id:mia-nohara:20170908145024j:plain
お稲を演じる増田千珠(左)と、源静香を演じる野原海明(右)。(撮影:干場安曇)

物語は新宿は花園神社で打たれた「この丗のような夢・全」を上書きするかのように進む。寿町の磁場を受けて、台本は日々じわじわと変化していく。台詞を覚えるのが大変である……。

mia.hateblo.jp

そんなわけで、横浜は寿町でお待ちしております。後半戦は2017年9月13日(水)から9月17日(日)まで。

f:id:mia-nohara:20170908144909j:plain
(撮影:鎌倉幸子)

もうひとつの この丗のような夢 寿町最終未完成版

www.suizokukangekijou-yokohama2017.com

臺本+遅れ+総監督 桃山邑

それは亡霊なのか
消滅をくりかえす波打ち際の砂もようのように
終わりなき追憶の対話をもとめ
星々の叫びとささやきがさかしまに蜂起する
水夫がまどろむ廢園のまぼろしとともに

横浜寿町労働センター跡地 特設野外儛臺「盜賊たちのるなぱあく」
2017年9月1㊎2㊏3㊐4㊊5㊋ 13㊌14㊍15㊎16㊏17㊐
全公演 夜6時30分 劇場外顔見卋(プロローグ)スタート 
全席自由期日指定 上演時間 約120分

yokohama-sozokaiwai.jp