〔日記〕何の肩書きもない
のそのそと起きて来たジロウから、思いもよらない朗報を聞く。
願掛けに行っていた神様たちのところへお礼に行くことにする。
途中、鎌倉税務署で確定申告を無事提出。
佐助稲荷は修学旅行の中学生で賑わっていた。
制服の群れに交ざって、スーツ姿の男性がひとり、ふたり、石段を登っていく。
どちらも独りで訪れたようだ。そのうちひとりは、スーツケースを持ち上げながら登っていたから、ずいぶんと遠いところからお参りに来たのだろう。
拝殿に深々とお辞儀をする。何か大切なことが叶ったのかもしれない。
苔むしたお社に針葉樹の間から日の光が差す。
会田誠が描いたキャラクターみたいな、変顔の狐がきらきらと光っている。
山道にハート型のクリスタルが落ちていた。拾って、近くの狐さんの足元に置く。
赤と白の蝋燭を、ジロウと一本ずつ立てていく。
近道を抜けて銭洗弁天へ行く。
たまに間違えて「紅洗前転」と言ってしまう。
上之水宮へ昇る途中で、星のような花が揺れていた。
社の中に神様が笑う。今日の神様は二柱だ。
足を伸ばして葛原岡神社へ。境内でなぜか煎餅を売っていた。
龍神に挨拶し、相槌稲荷とあいづちを打ち合う。
下山して、キャラウエイへ。初めて入った。
噂通りの「小ライス」なのに全然小盛りじゃないライスが出てくる。
昔ながらのカレーで、案外ぺろりと平らげてしまう。
変な時間帯のお客は若者ばかりだった。
腹ごなしに鶴岡八幡宮へ。
石段を登るのにお腹が重い。振り返ると若宮大路が茜色に染まっていた。
晴、よい朝ではじまつてわるい夜で終つた。
種田山頭火 其中日記 (二)
酔うて乱れて、何が母の忌日だ、地下の母は泣いたらう。
樹明君を案内して置いて、このざまはどうだ。
ふと仏前を見たら、――御供物料、樹明――の一封がある、恥を知れ、々々。
ぶら/\歩いたら、だいぶ気分がよくなつた。
玄で美味しい珈琲をいただく。ひと息ついて、島森書店を散策する。
ありがたいメッセージが届いていた。
ARGの野原海明でなくても、水族館劇場の野原海明でなくても応援してくれる人のいる嬉しさ。3年前の、何の肩書きもなかった野原海明に戻った。そういえばおれは、ずっと忘れていたけれど、組織の一員になるのは苦手だったんだなぁ。
「海明ちゃんは、ただ生きているだけで小説みたいだし、主演女優だねえ」
と、呑み屋でしみじみと人生の先輩に言われたことを思い出す。まあいいのか、好きに生きていれば。
あさつきがギリギリ二席空いていた。
コップ酒と鰤、初鰹。
ヒグラシ文庫へ。冷酒、ささみと芹を合えたもの。
会わなきゃ行けない人に会えた。来てみてよかった。
家に帰って、スーパーの寿司ととり天で呑みながら、炬燵で寝落ちする。