醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

〔日記〕就活を辞めようと思ったのは間違っていなかった

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  • こゝに
  • ふきのとうがふたつ
  • 山頭火

また芝居の夢を見る。
どこかうらぶれた島に来ている。小学校の校庭で路上芝居をやることになっている。
そのすぐ裏手にある、今はもうやっていない学習塾を事務所代わりに使っている。
島の人や、東京から駆けつけてきてくれた若手など、手を貸してくれる人が多くて昼飯が足りなくなる。
今日の飯は具だくさんのハヤシライスだ。

目が覚める。
食いそびれたハヤシライスが無性に恋しくなる。

湯船で『女のいない男たち』の続きを読む。
短編集なので、一日一編ずつ読み進めていく。

今日は「イエスタデイ」。

 僕の知っている限り、ビートルズの『イエスタデイ』に日本語の(それも関西弁の)歌詞をつけた人間は、木樽という男一人しかいない。彼は風呂に入るとよく大声でその歌を歌った。


 昨日は/あしたのおととといで
 おとといのあしたや *1

「僕」は早稲田大学文学部の二年生で、木樽は浪人生。ふたりとも二十歳で、早稲田の正門近くの喫茶店でアルバイトをしていて知り合った。

読みながら早稲田の街並みを思い出す。
正門近くの喫茶店とはどこだろうか、とか。

大学四年の時、ちょうど今みたいな生活をしていた。
授業は週に2コマしかないし、卒論もない。
教育実習に出るためにバイトを辞めたので、それから特にすることもない。
それで、こんなことを考えていた。

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今と考えていることがあまり変わっていない。

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(なんか、教訓を活かせていない気がする。)
好きな喫茶店に原稿用紙を持っていって、ただひたすら小説を書いていた。
就職活動は辞めようと思った。
真面目なおれは、正社員になんてなったら、仕事ばかりして小説は書かなくなるだろうと。
勘は正しかったなぁ。


どうしてもハヤシライスを食べたくなり、キャラウエイを目指す。
11時台に行ったのに、すでに長蛇の列だった。諦める。
近くの他の店でハヤシライスをいただく。
大きなビーフが入っていたが、おれが食べたいハヤシライスはそういう高級なのじゃないんだ、にんじんやタマネギがごろごろ入っていて、肉は豚の細切れでいいんだ、と思いつつ。

御成スタバでちょっと仕事。
日参していると、同じようにパソコンを持ってお気に入りの席で仕事をしている人の顔を覚える。欧米系の人が多い。そんな人同士で、なんとなく世間話をしているのをたまに見かける。微笑ましい。
バリスタのおねえさんたちとも顔なじみになる。

「僕、就活中なんですけど、アドバイスもらっちゃいました。あの白人のおじさん、よく来るんですか?」
「はい、もう何年も前から、常連さんですよ」

そんな会話が漏れ聞こえてくる。


7年前のあの時間がやってくる。
特にいつもと変わらない時間が過ぎていく。
陽射しが暖かい。

家に帰る前に安い赤ワインを買おうと思う。
あの日、いつもなら1時間もかからない職場からの道のりを4時間かけて帰り、近くのコンビニでとにかく最初に赤ワインを買った。店には血の気の失せた顔をした客があふれていて、みんな菓子パンやらカップラーメンやらを必死で買い漁っていた。
ワインを一本だけレジに持っていくと、いつものおにいさんが「おつかれさまでしたね」と言って微笑んだ。


必死に消息を探し合った、いくつもの家族のことを思う。
家に向かう道をぶらぶらと歩く。
夕暮れには少し早い、だいたいいつもと同じ時間に、ジロウが通りを歩いてくる。
あの時間の後に、ちゃんとまた会えてよかった。
鞄の中でワインが揺れている。

やつと、うちの、ふきのとうを見つけた、二つ、しよんぼりとのぞいてゐた、それでもうれしかつた。
よい月夜、おだやかな月夜だつた。

種田山頭火 其中日記 (二)

ジロウと鎌倉駅前のスタバへ行く。一人で残り、もう少し仕事をする。
ヒグラシへ。常温二合と鶏ナンコツ、塩豚のネギソース。

家に帰ってからスルメを焼いて『アンダーグラウンド』の続きを読む。

アンダーグラウンド (講談社文庫)

アンダーグラウンド (講談社文庫)

今読んでいる章は、ひたすら「運転取りやめのアナウンスが流れて」「仕方なくホームに出て」「気がつくと視界が暗くなっていて」「変だなと思いながら会社を目指した」というケースの繰り返し。ちょっと気分を変えようと、『珠玉の短編』に切り替える。

珠玉の短編

珠玉の短編

スルメを食べ過ぎたらしい。
夜中、腹が苦しくて布団でもがく。

*1:村上春樹「イエスタデイ」『女のいない男たち』文藝春秋、2014.04、p.67