醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

〔日記〕時空を超えてすれ違う


何物をも酒に代へて悔いることのない人が酒徒である。
求むるところなくして酒に遊ぶ、これを酒仙といふ。
悠然として山を観る、悠然として酒を味ふ、悠然として生死を明らめるのである。

種田山頭火 行乞記 大田


陰暦水無月八日、晴れ。

朝、わりと早く起きたものの、全然力が入らない。
とりあえずジロウに背中をほぐしてもらって、カップラーメンを食べる。

体は動かないけれど、腹ばかりが減る。
ひたすらスマホのゲームに興じながら鮭とばを炭酸で齧る。

夕方、ジロウが活動を開始するというので、どうにか風呂に入る。
なにか憑き物がついているのだろうか。
湯船に大量の塩を入れた。

よろよろと家を出て、久里浜に向かう。
今日は家には入らず、ジロウの用事が済むのを通りで待っている。

だるまで日本酒、鶏なんこつ、しろ、若鶏のコマ揚げ。

無性に海が見たくなる。
浜までぶらぶらと散歩。

50年くらい前、ジロウは独りでこの道を、なぜか「お母さんが死んじゃう、お母さんが死んじゃう」と思いながら歩いたんだそうだ。

50年前のジロウが、母親を亡くした今のジロウと、この瞬間時空を超えてすれ違ったのかもしれない。

スーパーでヱビスビールとのりしおピーナッツを買う。

砂浜に降りて、ビールを開ける。
空には蠍座
潮風で、だいぶ何かが浄化される。

最初は小さな光だったフェリーがみるみると近づき、やがて巨大な船となって港に停泊した。

またぶらぶらと散歩しながら戻る。
釈迦に寄って日本酒、和風の出汁が効いたハンバーグ。