醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

〔日記〕なくしてしまった指輪が出現している

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最後の晩餐! といふ気分で飲んだ、飲めるだけ飲んだ、ムチヤクチヤだ、しかもムチヤクチヤにはなりきれないのだ。

種田山頭火 行乞記 (三)

皐月廿六日、雨のち曇り。

あまりにも簡単にできてしまうことで、お金をもらうのには罪悪感がある。
でも、その「簡単にできてしまう」ということが才能なのかもしれない。

7時24分に起きる。目覚めてすぐ、sachi。ちゃんがインスタのライブ配信をしていたのでたまたま聞く。映画「怪獣の子供」を観に行け、というお告げが来たという話をしている。これは私にとってもお告げなのだろうと思う。

上映時間を調べると、辻堂テラスモールの映画館では11時頃のスタートだ。寝ているジロウを起こして「怪獣の子供、観に行こうよ」と言う。

魚とクラゲが漂っているワンピースを着て出発。フードコートで柚かしわうどん。ジロウは中華の焼きそばセット。「怪獣の子供」を見る。映画は漫画とちょっとストーリーが違う。パラレルワールドで起きた、もうひとつの物語のように。

吉本ばななさんが「不思議なことに、映画よりも漫画のほうが魚が動いて見えた」と言っていた。たしかに、と思う。ジロウは、「好きな感じ。でも、抽象的過ぎるから、万人受けはしなさそう」と言う。それも、たしかに、と思う。

見た後はそのまま新江ノ島水族館(映画の舞台でもある)に行こうかと思っていたけれど、今日出なくてもいいか、ということにする。スタバで写真をnoteにUPする。

しばし買い物をする。ジロウは、ウルトラ怪獣のダダと、浮世絵のTシャツを買っていた。ライブに行くというジロウと大船で解散。家に帰ってデスクワークしようかと思ったけど、力尽きて呑みに行くことにする。

ヒグラシ文庫へ。16時台で空いていて、めずらしくビールサーバーの影の端っこへ。ふとサーバーの上を見ると、中原さんが死んだ翌日になくしてしまった指輪が出現している。埃と油まみれで。しかも、チラシの影で正面からは見えない場所に。

もう戻って来ないと思っていたから、あまりのうれしさに押し頂き、記念に自撮りする。今日、この時間に呑みに来なければきっと見つからなかっただろう。お導きなのだ。

浮かれて二軒目はとのやま。ほぼ満席で忙しそうだ。ずっと焼き台にはりついていたエンドウさんが、帰り際に「ミアちゃん」と珍しく名を呼ぶ。
「なあに?」
「あの人に献杯」
そうか、誰かがちゃんと伝えてくれていたんだね。「献杯!」と店を出る。

酔っ払って、チョコミントのソフトクリームみたいなアイスと、小さいカップラーメンを買って帰る。アイスだけ食して21時に寝る。

夜中、ジロウが帰ってきたので、指輪が戻ってきたことを自慢する。
「龍が中原さんをあの世まで送って帰ってきたんだねえ」とジロウがしみじみ言う。指輪には厳島弁財天の龍神が刻まれている。