醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

〔日記〕輪姦されたくらいのショックだぜ?

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  • のびのびて
  • くさのつゆ
  • 山頭火

今日も私はいやしい私を見た、自分で自分をあはれむやうな境地は走過しなければならない。

種田山頭火 行乞記 (三)

水無月廿日、曇り。

7時50分に起きる。ジロウにゴミ捨てに行ってもらおうとゴミをまとめていたら、こんな朝っぱらからチャイムが鳴る。

玄関に出たジロウと共に、スーツ姿の男が三人、ぞろぞろと上がり込んでくる。国税局の抜き打ち調査らしい。

はっ? でもなんでいきなり、知らない男を三人も部屋に上げてるの? おれ、ノーブラパジャマ姿なんですけど。すっぴんなのはいつものことだからいいとして、顔さえ洗ってない寝起きなんですけど。

しかも、国税局を名乗る男は大変に横柄である。「これに関する書類出して」なんて、敬意の欠片もない命令口調だ。あげく、「書類の置いてあった場所見せて」と言って、ずかずかと蒲団を敷いたままの寝室に入り込んでくる。

「おはよーございまーす」と、仕方なく声を掛ける。
「うちのがなんか悪いことしたんですか?」

金髪がスーパーサイヤ人のような寝癖になっていて、「毎日が地獄です」と書かれたTシャツ(別府仕様)を着て、コンタクトを入れてないから超目つきの悪い奥さん(おれ)が出て来て、国税局の男たち、ビビる。

「あっ、別に悪いことしたとか、そういうことではなくて、調査の結果何もなかったらそれでいいんですっ。悪いことをされていた場合は、警察の令状が出て強制調査になりますからっっ」

っていうことは、令状もないくせにずかずか人の家に上がり込んで調査しようとしているのか、君たちは。

「ところで、どちらさまでしょうか?」
まずは名乗れや、と心でつぶやいてすごむと、
「はっ、国税局です!」
と怯えながら答えた。ちょっと可哀想になってきた。

結局ジロウを連れて、久里浜の家まで調査に向かうことにしたらしい。ジロウがシャワーを浴びている間、横柄な態度だった上司らしい男と世間話をする。ノーブラパジャマ、サイヤ人風寝癖で、目やにがついた顔のままで。

上司の男はいたたまれなくなったらしく、部下を置いて先に外へ出て行った。

タクシーが来て男たちが出て行ったので、ようやく風呂に入る。『船瀬俊介&秋山佳胤 令和元年トークライブ「大団円」―波動(バイブス)と断食(ファスティング)が魂の文明をおこす』を読む。入浴時間は51分26秒だった。

風呂から上がろうと思ったら、ちょうど矢山先生のところに立ち入り調査が入ったときの事を話しているページにさしかかる。なんというタイミングだろうか。

「おい、ちょっと待て! 刑事でも家宅捜査のガサ入れのときは、裁判所に、容疑を申し立て『令状』を出してもらうだろう。じゃあ、矢山クリニック監査の”容疑”は、いったいなんだんだ! 答えろッ!」
〔中略〕
「……ア、アノ……容疑はですね。監査が、オ……終わってからお伝えします」
これには、俺もぶち切れた。
「なんだと、もう一回言ってみろ。いいか、テメェらのやっていることは、立派な違法行為だ。刑法第293条違反、公務員職権乱用の罪、ならびに、刑法233条、名誉毀損の罪、ならびに、行政手続法違反……ならびに……」と、罪状を大声でまくしたてた。まるで検事の論告求刑だ。そして、こう言ってやった。
「いいか、テメェらの名刺は、ちゃあんとこちらにあるんだ。全員、刑事告訴するから首を洗って待ってやがれ!」*1

可哀想だと思って怒鳴るのはやめたが、ほんとそう、っていうかもう、家宅侵入だよな。その場で警察を呼んでやってもよかったかもしれない。すごく腹が立ってきた。

何も考えずに許可無く男たちを部屋に上げたジロウにも腹が立つ。ここはおれの家なんですけど。怒りのあまり、お気に入りのペンを机に思いっきりぶっ刺して一本破壊する(もったいないことをした)。

洗濯をして徹底的に掃除し、部屋を浄化する。昼はクリヤムのランチ。今日はレモングラスの効いたカレー。岩座へ行って、浄化用のホワイトセージとスプレーを買う。島森書店でスケッチブックと、新しいペンを買う。

帰宅して、ホワイトセージで徹底的に自分をいぶす。部屋もいぶしまくる。

写真をnoteにUPする。

溜まっていた日記を書く。

いい時間になってしまったので、本当は仕事をもっと進めておきたかったのだが、切り上げる。大変な時間のロスだった。家宅侵入だけじゃなく、営業妨害だな。

買い物に出掛ける。腹が立ちすぎたせいか、珍しく腹が減っているので鶏モモを骨のついたまま焼いたのを一本買う。ヤゲン2本、トマト、日本酒(ちょっといいのにした)、しらす、冷や奴。帰宅してONE PIECEを読みながら晩酌。

ジロウがほろ酔いでノーテンキに帰ってくる。
「国税局の人の名刺、ちゃんともらった?」
「もらったけど、久里浜に置いて来ちゃった」
「……置いて来ちゃったじゃねーよ、ちゃんと持って来いよ。くそったれ、アイツら絶対に許さん。孫子の代までたたってやる!」
「ごめん。でもおれ、全然迷惑かけたとは思ってなくて」
「はあああ? 『迷惑かけたと思ってない』? はっはっは、もう笑うしかないよねー(激怒)」

アポ無しでやってきた知らない男を突然家に上げるんじゃねえよ! 私にとって自宅は聖域だ、親しい友達だって入れたくない聖なる神殿なんだ、それをおまえ、おれが大事にしているものを簡単にむげにしたあげく、ノーブラで寝起きのおれを知らない男たちの前にさらすのかよ。おれにとっちゃあ、輪姦されたくらいのショックだぜ?

すっげえ頭に来て、犬のように吠える。とりあえず落ちついて寝ようと思って顔を洗いに洗面所に立ったら、ジロウが使った後のタオルを洗濯機に放り込んだまま、新しいタオルを出していない。ますます腹が立つ。びしょびしょのまま新しいタオルを出して、床に思いっきりたたきつけて暴れる。

ジロウがまだぶつぶつ言っているので、「ちょっと黙ってくださいます?」と言う。ジロウがぐすぐすしながら「明日なんて来なければいいのに……」と言いながら蒲団に入ったので、『船瀬俊介&秋山佳胤 令和元年トークライブ「大団円」―波動(バイブス)と断食(ファスティング)が魂の文明をおこす』の続きを読んで、23時8分に寝る。

*1:船瀬俊介、秋山佳胤『船瀬俊介&秋山佳胤 令和元年トークライブ「大団円」―波動(バイブス)と断食(ファスティング)が魂の文明をおこす』明窓出版、令和元年7月、p34