醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

D:更新のお知らせ

うつ病は私の人生にとってギフトだった〔アメブロ〕

33才にして、演技の経験も無いのに劇団に入り、 「いやぁ、私はいつまで自分探しをしてるんだろう」と思ったのだ。 そのことを何かで書いたら、演出家がそれを読んで私の役柄(未亡人のお嬢様)に 「自分探しを続けるお嬢様」という設定を書き加えた(脚本そ…

白濁(十九)

「たまにはもう一軒、一緒にいかがですか」 と高橋が言うので、敷居が高くて一人ではなかなか入れなかった焼き鳥屋を提案した。噂によると、混んでいる日には一見さんは「予約でいっぱいだから」と断られてしまうらしい。 小町通りの路地裏のその店は、今日…

その仕事はなんのためにしているの?〔アメブロ〕

大学を卒業して図書館司書になった。 図書館の窓口業務や配架業務を委託請負している会社の契約社員という立場になる。 定められた仕様書の範囲内のルーティンワークだ。 小中高と万年図書委員だったから、今までやってきた好きなことでお金がもらえるという…

白濁(十八)

鎌倉に越してきてからは、ハイヒールを履くのをやめてしまった。なんというか、このまったりとした空気感にとんがった靴は似合わないのだ。休みの日は、真冬以外はビーチサンダルばかり履いている。そのまま砂浜に降りられるし、気が向けば海水に足を浸した…

白濁(十七)

「白石さん、センスありますよ」 アルゼンチンタンゴの先生が言う。先生というにはまだ可愛らしい、私よりも少し年下の青年だ。 「そうですか?」 「ええ。アルゼンチンタンゴは、我の強い女性にはちょっと向いていないんです。男が次にどんな動きを仕掛けて…

白濁(十六)

「わざわざありがとうございました」 「いえいえ、別にすることもなかったし」 それは本当だ。予定の無い土曜日、坂井にメールしてみたところで返事が返って来ないのはわかっている。 「そうだ、白石さん、Facebookってやってますか?」 「一応。登録はした…

白濁(十五)

ギャラリーの入り口がわからなくて、何度か通り過ぎてしまった。住宅地の中に建つ無機質なビルの、わざと見つかりづらいように造ったみたいにみえる狭い階段を昇った先に、高橋修二の個展会場はあった。

白濁(十四)

ポストカードの写真はやけに暗かった。コンクリートの壁と、そこに這う錆びた金属の棒。それらは複雑に絡まって、中途半端な蜘蛛の巣のように見える。 カメラマンの名前は、高橋修二。 「高橋さんっておっしゃるんですね」 「ああ、まだ名乗ってなかったです…

小説を書くことはお金にならない?〔アメブロ〕

小説を書いて生きていこうと思っていたのに、 「小説を書くことはお金にならない」 と思い込んでいた。 もし小説がお金になるとしたら、それは、 新人賞を取ったりベストセラーになったりしてから。 それまでは小説は仕事にならない(小説で生活費は稼げない…

白濁(十三)

白く濁ったそれは、飲み食いしたものによって味が変わるのだという。発泡酒ばかり飲んでいる坂井の体液はさらりと軽く、そして少し苦い。 一度、苺を山ほど食べてみたらどうなるか試してみたことがある。スーパーで安売りになっていた苺を三パック買い込み、…

白濁(十二)

立ち飲み屋なんて入ったことがないから勇気が要った。意を決してガラス戸を開け、仕事帰りのサラリーマンばかりのカウンターに、わずなか隙間を見つけて手を置いた。女一人の客は珍しいのか、視線がちらちらと投げられる。 「いらっしゃいませ、なんにしまし…

大学は働くための資格を身につけるところじゃない〔アメブロ〕

お金に対する思い込みって、親の影響を強く受けている。 私を産むときに仕事を辞めた母さんは、離婚したら生活費がなくなるってずっと思ってた。 それで結局、死ぬまで離婚を踏み切れなかった。 母さんは私にこう言った。 「手に職をつけるんだよ」 「結婚し…

白濁(十一)

結婚をゴールとしない恋は、いつしか単調なものになる。もう二人で日中にどこかへ出掛けることもなければ、最初の頃のように飲みに行くこともなくなっていた。ただ坂井は私の部屋に通って来て、もうひとつの自分の家のようにくつろいで帰っていく。それは、…

自由に生きるには、自分で生活費を稼げるようにならなくちゃダメ?〔アメブロ〕

「小説を書いて生きていけるなら、カラダを売ったって、ホームレスになったってかまわない」 と思っていた。 それは、断固として就職活動をせず、 ただ書くことに人生を捧げようとした大学時代の私の熱い決意ではあったけれど、 結局のところ、 「小説を書く…

白濁(十)

裏の家の金木犀が咲いた。 台所の窓を開けて置くと、甘い香りが部屋に流れ込んでくる。 畳の部屋に不釣り合いな白いソファーは、ある日突然宅配業者が運びこんできた。坂井からの引越祝いだった。 本人のほうは、やっぱり不機嫌な顔をして時折やってくる。「…

あたりまえのように就活スーツを着て就職活動をする気にはなれなかった〔アメブロ〕

大学3年だと自己紹介をすると、 「あら、就職活動、大変ね」 と言われる。 大学3年になったら、就職活動をするのがあたりまえみたいに。 なんだかすごく腹が立った。

白濁(九)

『交通費? いいですよ。白石さんの場合は、契約で全額出すことになってますから』 派遣会社の労務担当に電話をして、鎌倉に引っ越した場合に交通費は支給されるのかどうか確認した。全額は無理と言われるかと思ったが、あっさりと通ってしまって拍子抜けし…

[漂流物集積所通信 第10号]誰かを批判するのでなく、批判される側になろう〔note〕

批判されるのって恐いから、なるべく嫌われないように、迷惑かけないように生きてしまうけれど、それって全然楽しくない。 好き勝手やって、迷惑かけまくって、批判される側になって生きようと思う。

白濁(八)

「恋は三年で終わる」と言っていたは、瀬戸内晴美だったか、山田詠美だったか。 醒めた恋は、愛に浄化する? いや、そんなことはない。 相手への幻想が融けて、尊敬も無くなった後に残るのは、依存だけだ。

小説は何のために書くもの?〔アメブロ〕

尾瀬高等学校自然環境科という、へんな高校を卒業した。 日本で初めて、環境教育の専門学科をつくってしまったという、クレイジーな高校だ。 そのまま環境保護の道に進むものと思っていたけれど、卒業研究をやってみて、自分には理系の研究や調査が向いてい…

白濁(七)

結婚をしたいわけじゃなかった。 子供が欲しいわけでもないし。 子供を産むつもりがないなら、結婚って何のためにするんだろう? って思ってた。 好きな相手がいて、ときどき思い出したように会って性欲を充たす。 それでいいんじゃないかと思ってた。 でも…

誰かにとって「いらない人間」でも「駄目な人間」でも、「それでよし」。〔アメブロ〕

「いい成績」をとって、「いい学校」に進学して、 いざ「いい会社」に就職しようとしたときに、 それまでは頑張って「いい成績」を取れば評価されていたのに、 どれだけ頑張っても認められないことがあると知る。

白濁(六)

手の届かない人が好きだ。決して振り向いてくれそうにない人。 坂井はそういう人だった。私なんて好きにならない人。追いかけても追いかけても手に入らない。

ガツガツ勉強するのはカッコ悪いこと?〔アメブロ〕

保育園のころ、「べんきょう」することに憧れていたんだ。 いらなくなったカレンダーの裏紙をもらってノートをつくったよ。 表紙に「べんきょう」と書きたかったんだけど、習い始めたばかりのひらがなにはちいさい「ゃ」「ゅ」「ょ」があることを知らなかっ…

[漂流物集積所通信 第9号]読んでもらうには、まずは見た目から…〔note〕

読んでもらうには、まずは読みやすくすることから。 自分のブログもカスタマイズしようと火がついたのだ。

白濁(五)

「久米川? 逆方向なのに、なんでまたわざわざ高田馬場まで」 あなたと話をしてみたかったんです、とは言えなかった。かわりに真っ赤になってしまったのに、坂井は気づいたかもしれない。

[漂流物集積所通信 第8号]他者からの信用を得る前に、まずは自分を信用する〔note〕

まずは、「自分」を信用するところから始める。 他者からの信用を得る前に。 誰かの顔色をうかがう人生ではなく、「自分」を生きるのだ。

白濁(四)

「こんな居酒屋でよかったんですか」 初めて二人で飲みに行った日、坂井はそう言った。高田馬場駅に近い、地下の店だった。学生客が多いのか、安くてボリュームの多いつまみが多い。 「私、こういうちょっと汚い店好きですよ」 そう答えて、日本酒をバイトの…

白濁(三)

友達と会う約束をするのをいつしかやめてしまった。坂井は、いつも突然に連絡してくる。 『今から行く』 それが、今から何時間後なのかはさっぱりわからない。でも私は舞い上がってしまう。

白濁(二)

別れ話をしに来たのだというのに、坂井を見つけるといつものクセで笑顔になってしまう。会えるときをいつも心待ちにしていた。高田馬場で高い部屋を借りたのは、坂井が気まぐれに寄り易いようにだった。自分では見ることのないブラウン管のテレビは、場所塞…