醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

〔映画〕南の国のエロスはなんとも切ない ~ 中江裕司監督 「ナビィの恋」

忘れられない人。たとえ六十年という月日が過ぎても。とめられぬ想い。他に何を捨てても。

ナビィの恋 [DVD]

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大学で、オキナワとアイヌ文学史を履修していた。同じ国ではあるが、どちらも、とても遠い。言葉の差、価値観の差。似通ってはいるけれど、ヤマトの人間には越えられない一線がある。

授業でオキナワ出身の漫才師のコントを見た。画面の中の客席からは大爆笑が起こるのだけれど、字幕を追って読んでいるヤマトの学生にはどの辺が面白いのか良く分らない。

そういえば「ナビィの恋」でも、本土では大人気の芸人が、粟国島では全くうけないというシーンがあった。ナビィの恋」では会話がオキナワの言葉なので、字幕を読まないとヤマトの人間には何を話しているのかよくわからない。そして、おじいの会話の中には突然に英語が混ざる。「びふぉー、ないんてぃほぉてぃふぁいぶ」。

ナビィおばあ(平良とみ)を中心にした恋の炎は、音楽と共に盛り上がっていく。琉球民謡はもちろん、カルメンのハバネラも。「愛してるランド(アイルランド)」出身のオコーナー演じる、アシュレイ・マックアイザック氏のノリノリなバイオリン演奏が効いている。思わず一緒になって踊ってしまいたくなるような音楽ばかり。

おじい役の登川誠仁さんは知る人ぞ知る沖縄民謡の大御所だ。エロいセリフの大部分をおじいが引き受けている。

おっぱいの大きい女はいいよ 小さい女もそれはそれでいいよ
洗濯する奈々子さんのおしりはぷりぷりぷりぷり可愛いよ
あら私おっぱいも素敵なの 早く揉んでよ 早く揉んでよ
(「海ぬチンボーラ」の替え歌)

その美声と三線さばきでそんな! ああ、でも南国の青空の下で語られる下ネタは、なんともあっけらかんとしている。

ナビィの恋

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物語は「十九の春(じゅりぐわぁ小唄)」という歌に沿うようにして進んでいく。ナビィの十九の頃の恋。その回想シーンだけチャップリンのようなモノクロ無声映画になっているところが遊び心満天だ。

それにしても、なんと熱い恋。六十年に渡って初めての人を忘れられなかったおばあと、それを知っていながら寄りそい続けてきたおじい。おばあの胸の痛み、おじいの果てしない寂しさを思って、最後は泪がとまらなくなり、危うくティッシュ一箱使い切ってしまうところだったわ。