モテすぎる女はつらいよ……「とはずがたり」の小説版 ~ 瀬戸内晴美 『中世炎上』
室町時代、後深草院二条という女房によって書かれた「とはずがたり」。この手記は昭和十五年になってようやく発見され、時代の光を浴びた。
この「とはずがたり」に脚色を加えて小説に仕立てたのが、瀬戸内晴美の「中世炎上」だ。
- 作者: 瀬戸内晴美
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1989
- メディア: 文庫
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後深草院二条の「とても人には言えない恋」
物語は、原作には詳しく描かれていない、後深草天皇と二条の母「すけだい」の恋から始まる。
まるで源氏物語の若紫のように、後深草院の愛人となった二条。院の寵愛を受けた彼女には、人に語ることの出来ない隠された恋があった。
それも、ひとつやふたつではなく。
後深草院、雪の曙(西園寺実兼)、有明の月(性助法親王)、亀山院、鷹司兼平……。
名だたる男たちの妄執を受けた二条は、それだけの美貌と才覚を持った女だったのだろう。
彼女の人生を垣間見ていると、「モテる」ことは羨ましいことではないのだとつくづく思う。
愛欲の罪を重ね、出家した二条。「とはずがたり」の後半は、女西行とも言うべき、法衣姿の彼女の紀行が記されている。
女性作家ならではの性描写の巧みさ
現代語訳ではなく、新たに題をつけ小説にしたことで、『とはずがたり』は現代の私たちにも親しみ易い物語となった。
登場人物の台詞などをたどっていくと、目の前にその人たちが現われてくるようだ。
そして何より、瀬戸内晴美の性描写の巧みさに、小説『女徳』『色徳』と同様に目を見張ってしまう。
物語の終盤、後深草院崩御の場面では、男性のそれを「柔らかな子鼠」と表現している。
ちなみに良寬の生涯を描いた『手毬』では、良寛のそれを「生まれたての子猫」と示していたと記憶している。
そんな描写は、女の眼から見た、なにか愛しさを含んだ特有のものなのだろうなぁと、しみじみ思う。
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