後深草院二条 瀬戸内晴美「現代語訳 とわずがたり」
- 作者: 後深草院二条,瀬戸内晴美
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1988/03
- メディア: 文庫
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「中世炎上」とあわせて、こちらも読んでみました。「中世炎上」よりも、あっさりした印象を受けます。引き比べ、北山准后の九十の賀の描写が余りにも盛大なので疲れました。小説として楽しむには、「中世炎上」の方をお勧めします。三人称視点で書かれた「中世炎上」に対し、原作のこちらは一人称。瀬戸内晴美訳の柔らかな語りが読むうちにこちらに浸透するようです(今日の記事の文体は、すっかり二条の語りが乗り移ってしまいました)。
今はもうすっかり馴れ親しんだあの方の朝帰りの時は名残りが惜しまれ、二度寝の床の中で涙をこぼし、待ちわびる宵は、ふけゆく鐘の音に、自分の悲しさのあまりの泣き声を添え、さて、いよいよ恋しい方が来て下さったのを迎えてからは、この秘密が世間に洩れはしないかと不安になり、里居していると、御所様の面影を恋い、御所に上がって、君のお傍に伺候している時は、御所様が他の女をお召しになる夜な夜な、嫉妬で恨みがましくなり、私への御寵愛が次第に薄くなっていくのを悲しむという有様。*1
まさに女の業を描く、長い一文。この原文をぜひ読んでみたいと思うのです。
この現代語訳では、後編の巡礼部分が要約され削られています。出家された今の寂聴さんなら、この部分にも厚みを持たせて訳されるのではないのでしょうか。