〔映画〕恥と表現は、ときとしてよく似ている。~ 木下惠介監督「カルメン故郷に帰る」
雨が降ったりやんだりしている。秋の、細かい霧にも似た雨がとても好きだ。時雨、というのか。
高原にいるような気分になるから。
そぼ降る雨のなか、コバカバへ。木下恵介生誕100周年記念イベント「NEW DISCOVER KEISUKE KINOSHITA」*1の三夜目。このイベントは十一月十八日まで続いていて、鎌倉のあちこちで木下監督の映画を上映している。きれいなパンフレットのデザインはぬくちゃん。
「カルメン故郷に帰る」は、日本で初めて作られたカラーの映画なんだそうだ。主役は、高峰秀子演じるストリッパーのカルメンこと、おきんちゃん。
木下惠介生誕100年 「カルメン故郷に帰る」 [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: 松竹
- 発売日: 2012/09/26
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浅間山の裾野、北軽井沢で生まれ育ったおきんちゃんは、ある日家を出て東京へ行き、今じゃそこそこ名の売れたストリッパー。故郷に錦を飾らんと、友達のストリッパーを連れて休みを利用して一時帰郷。だけれどあまりに派手で華やかでセクシーな彼女たちは、牧歌的な故郷では浮くこと浮くこと。
大自然、高原、山、牛、馬。そしてそこで穏やかに暮らす人々...の前に、突然極彩色の彼女たち!! それはあたかも、白黒一色しかなかった映画界にカラフルな色の絵の具をぶちまけたよう。
人前で裸で踊るなんてなんて恥ずかしいことを...と涙にくれる父親をよそに、彼女はストリップを芸術だと思っているからまさに天衣無縫。こんなに素晴らしい芸術を、故郷の人たちにも知ってもらわなくっちゃあ!とやる気まんまん。
コメディとして楽しめるけれど、風刺でもある。
「芸術」って、なんだろう。
カルメンの幼馴染であり、戦争で失明した田口が作曲した、故郷を讃える歌。それはあの有名な「ふるさと」を転調したような曲。やっと帰郷できたのに、視力を失ってしまっているから、懐かしい美しい故郷の光景をもう目にすることの出来ない深い哀しみ。村の小学校の校長先生は「これこそ芸術!」と彼の歌を褒めちぎり、運動会の日もトラックの真ん中に舞台をつくって演奏を請う。田口に好意を持つカルメンは一生懸命その歌を聴こうとしているんだけれど、表情には明らかに退屈が滲んでいる。
哀切たっぷりに涙と共感を誘う。受け入れやすく、分かりやすい。それがこれまで村にあった「芸術」と呼ばれるもの。そこを彼女たちは引っ掻き回して「これが芸術なのよ!」と踊ってみせる。ストリップは確かに、男たちの性欲を埋めるためのものに過ぎないかもしれない。だけれど、村のおばさんやら婆ちゃんやらも繰り出しておにぎりを頬張りながらまじまじ見ている姿なんて見ると、やっぱり彼女たちはその村に新しい風を持って来たのだろう。
恥と表現は、ときとしてよく似ている。
映画上映のあと、スタイリストの轟木節子さんのトーク。カルメンたちの衣装も目を引くけれど、村の人たちの牧歌的スタイルも実はずいぶんと考えられていて可愛らしいものであったと気づかされる。
雨はやんだみたい。ヒグラシ文庫へ呑みに行く。日本酒と豚角煮豆腐、アンチョビ豆腐。久しぶりの友人が来ていて嬉しい。