結婚
大家さんに結婚の報告をする。
「あら、旦那様のお勤めは塾? 帰りが遅くて大変ねえ。栄養のあるご飯つくって差し上げてね」
「ご長男なの? それじゃあアナタもじきに家にはいるんでしょう? 先に子どもつくったほうがいいわよー。その方が受け入れてもらいやすいわよ」
おれは呆気にとられつつ、苦笑いで適当に相槌を打つ。そうか、おれの棲んでいる世界は、まだそういうところだったのか。
結婚したら「妻が毎晩夕飯をつくる」「男の家にはいって後継ぎを産む」。
女性の手帳にも驚いたけれど、この国の女の価値は未だに、家を守って後継を産むこと、であるらしい。そしてそのための婚姻制度。なるほどね。だから同性の結婚も、夫婦別姓すら、今の日本では実現できないのね。
岡本太郎が敏子を妻ではなく養子とした思いがおれにはわかるような気がする。日本国家の法律の下で、家族として保証されればそれでいい。妻なんていう社会通念に愛する女を縛り付けなくてもいいのだ。