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野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

映画「3月11日を生きて」上映@さくらWORKS〈関内〉に行ってきました

青池憲司監督のドキュメンタリー映画「3月11日を生きて」を観にさくらWORKS〈関内〉へ行ってきた。会場では石巻在住の写真家・阿部美津夫氏の作品も展示されていた。主催はアルファデザインくるくる関内

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阿部 美津夫 | Facebook阿部 美津夫 | Facebook

映画の舞台は宮城県石巻市にある門脇小学校。二〇一一年六月、カメラは被災した門脇小へ向かう。

黒く焼け焦げ、廃屋と化した校舎。そこがつい最近まで学校であったなんて信じられないほどの荒れようだ。椅子も机も焼け焦げ、パイプだけが残った自分の席の灰をかき分けて、思い出の品を探す少年。見つかったのは灰になった本の一部だけだった。「こんなものでも、思い出になりますから」と彼は笑顔をつくってみせる。

火災から逃れた教室も、三月十一日のあの日のまま時間が止まっている。開かれたままのノート。黒板に残された日付と日直の名前。震災が発生した一四時四十六分、低学年の児童はすでに授業が終わって七十四人が下校途中。高学年の児童はその日最後の授業がちょうど終わったところだった。

裏山の緑と蝉の声が降り注ぐなか、震災当時の校長先生が校舎の中を案内する。校長室見る影もない。先生の机があったあたりには、どこからか流されてきた石油ストーブが転がっていた。

あの日を生き抜いた、児童、教師、保護者のインタビューで映画は構成されている。震災時の映像は無いが、彼らの生々しい話からその日の様子が湧き上がってくる。

突然の大きな揺れ。びっくりして泣き出してしまう女の子たち。慌てて机の下にもぐる。あまりの揺れに、逃げ道を確保しに行った先生も転んでしまう。校庭で作業をしていて地面に突き刺しておいたスコップが、縦揺れで遠くへはじき飛んだ。体育館の天井からもうもうと落ちてくる砂埃。すぐに停電してしまったので非常時の校内放送も使えなかった。教頭先生が大声を張り上げ学校内を走り回って避難を促した。低学年の男子にそのときのことを訊いてみる。

「……こわくなかった。すごくゆれて、おもしろかった」
「みんな泣いてましたよ。おれは泣かなかったけどね」

そういう感想が、男子らしくて可愛らしい。

海が近いからと、普段から津波を想定した避難訓練をしていたことが役に立った。校庭に集まる第一次避難も、津波警報発令後に裏山へ逃げる第二次避難もスムーズに済んだ。雪が降る中、近所のお年寄りの腕をひいて山へ駆け上る。余震の中、男の先生が校舎の中に戻ってブルーシートを引きずり出してきた。地震発生時に教室の中にいた子どもたちは、逃げる前に防寒着をはおる時間もなかった。高学年がブルーシートの端を持ってテントのようにして雪を防ぎ、山頂の公園で寒さを凌いだ。

門脇小は地域の避難所にもなっている。近所から続々と避難する人たちが集まってくる。教頭先生を始め、何人かの先生たちが学校に残って避難者の対応をした。病気で歩けない人もいる。無情にも津波を告げるサイレンが響き渡った。今まで聞いたこともないような大音量が迫る。海の方を見ると、灰色の壁のようなものがせり上がっていた。歩けない人を支えながら、校舎の上へ逃げる。津波到達。流されてきた自動車が爆発。校舎に引火する……

地震発生から、翌朝まで。そしてそれから、三ヶ月が過ぎた、夏。

門脇小の子どもたちは、被災から免れた門脇中学校の校舎で授業を受けている。あの日のことを書いた作文を読んでくれた。ある女の子の話。

地震から楽しいことがひとつもなくてつらかった。春は虫が出てくるからきらいな季節だったけれど、花が咲いたり、チョウチョが飛んだりしているのを見たら、自然ってすごいな、きれいだなって思って、はじめて少しだけ春が好きになった」
「春も過ぎて夏になったけれど、今は楽しいことはある?」
「はい。友達がいるって、毎日会って遊べるってすごいことなんだってわかって、今はとても楽しいです」

笑顔だった。その強さが、切なかった。

当たり前だった日常は戻ってこないし、もう二度と会えなくなった人もいる。失ってみてはじめて、人は自分が今持っているものの有り難さに気づくのかもしれない。だったらそれはあまりにも哀しい。

「震災のことを、もっと伝えたい。同じことが起きたら、たくさんの人が助かるように」

冒頭で教室にいた少年がそう言った。上映後のトークイベントで、写真家の阿部さんは「あの少年と同じ気持で写真を撮り続けている」とおっしゃっていた。

あれから三年。おれたちは、何事もなかったような気になって、忘れようとして、毎日を過ごしていないだろうか。

関内で石巻の震災ドキュメンタリー映画上映会-写真展・マルシェも - ヨコハマ経済新聞関内で石巻の震災ドキュメンタリー映画上映会-写真展・マルシェも - ヨコハマ経済新聞